連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第 28 回 研修内容を開示して その意味を世に問う
社内研修のオープン化で総括的評価を測る
形成的評価(学習指導の途上で、学習活動の促進と指導方法の確認・修正のために行う評価)を繰り返しながら粛々と運用してきたクローズドな社内研修の内容を、思い切ってオープンにしてみる。これは研修の品質をアップさせるのに有効な手法の1 つである。業界のセミナーでもよし、講演会でもよし。今まで自分たちが行ってきたことを自分たちの言葉で語り、その意味を広く世に問うてみる。それが世間でも注目されている大規模なコンクールなら、さらによい。具体的なゴールに向かって自分たちの価値観を突き詰めてゆき、その成果を外向きに表現する。これは、またとない総括的評価のトレーニングになるからだ。
三井化学の“RC(後述)法令遵守教育e ラーニングコース”の関係者から、「開発を始めて3 年経ったので日本e ラーニング大賞に応募したい」という相談を受けた時、「よっしゃ!」と2 つ返事で賛成したのは、そろそろ成果を世に問う時期だとコンサルタントの私も感じていたからである。コンクール応募は、今までのプロセスと成果に自信を持っている証拠であり、その経験を1 つのモデルに昇華し、組織に定着させるチャンスにもなるのだ。
しかし、毎年100 もの企業・大学が応募する日本で最大のe ラーニングのコンクールである。第一次の書類審査で落ちたら、ちょっとヤバイ。彼らの自信は木端微塵に砕け散り、社内の評価も厳しいものになる。
応募する以上は、ふさわしい賞をゲットする意気込みでいかなければならない。それには戦略が必要というわけで、私は2 つの提案をした。
1 つは「学習修了率98%」や、「延べ受講者数7 万7000人」といった数字やチャートでまとめたプレゼンテーションではなく、自分たちの言葉で“物語”を紡ぐこと。もう1 つは、コンテンツ単体ではなく、人材育成全体の“ブランド”として提案することである。
教育テーマのRC(レスポンシブル・ケア)とは、「化学物質を製造または取り扱う事業者が、自己決定、自己責任の原則に基づき、社会の人々の健康と環境を守り、設備災害を防止し、働く人々の安全と健康を保護するため、対策を行い、改善を図っていく自主管理活動」のこと。環境問題がグローバルかつ緊急の課題になっている昨今、非常に重要なテーマではあるが、正直言って地味である。モバイルだの、シミュレーションだの、ICTをダイナミックに活用した面白い“モノ”の前では、かすんでしまう恐れがある。