連載 HRD Professional Road 人材開発プロの道 Vol.9 仕組みで現場を変える(後編) ─仕組みを活用する─
人材開発にかかわる仕組みは、どのようにすれば最も活用されるのか。人材開発は長期的視点を必要とすることを踏まえたうえで、今号では、他部署の仕組みに組み込むべきか、人材開発部独自に仕組みをつくるべきかの判断をするポイントを紹介する。
仕組みを活かすアプローチを考える
前号では、“人材開発にかかわる仕組み”の基本構成である「考え方(設計方針と運用方針)」「展開方法(手続きと基準)」「指標(目標項目と目標値)」について触れてきた。今号では、この仕組みをどのように活用すれば、人材開発方針を実現できるのか考えてみたい。前号でも述べたが、人材開発にかかわる仕組みには、大きく「人材開発部門が独自に持っている仕組み」と「他部署が持っている仕組みの中に組み込まれているもの」の2 つがある。このため、新しく仕組みをつくる時には、この2 つのどちらに当てはめるのか──人材開発部独自に仕組みをつくったほうが活用できるのか、他部署にすでにある仕組みに組み込んだほうがよいのか、という判断が重要になる。
これを判断するためには、人材開発担当者は次の2 つのことを認識しておかなければならない(図表1)。
1つは「仕組みは少ないほうが良い」ということである。企業経営の中の仕組みにはヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源別の仕組みの他、顧客対応や顧客への製品・サービス(価値)の提供方法の仕組みなどさまざまなものがある。加えて21 世紀に入って強化されているものとして、個々の社員のみならず組織としてのヒト、すなわち法人を対象とした仕組みがある。
このような仕組み1 つひとつに対して“進め方”や“マネジメントの仕方”を規定していっては、手間ばかり増えて、運用する側が疲弊してしまう。
2 つめに、人材開発は直接的に経営資源や価値の提供(ビジネスプロセス)に影響を及ぼしにくいということが挙げられる。人材開発を行えば、それが即企業の成長に影響するとは言い難く、長期的視野で見なければ、その効果はわかりにくいわけである*1。
これらから考えると、人材開発のテーマはまず、独自に仕組みをつくるよりも「他部署の仕組みに人材開発テーマを組み込んでいく」ことを考えていくほうが効率的な場合が多いことがわかる。
●仕組みそのものを組み込む
では、どのように他部署の仕組みに人材開発にかかわる仕組みを組み込んでいけばいいのか。ここで重要なことは、人材開発の要素をただ“付加”するだけではなく、しっかりと他部署の仕組みの「考え方」や「展開方法」に組み込んでもらうということだ。
【事例①】
ある施設管理関係企業H 社では、人事部と人材開発部が分離して久しい。この会社で、人事部が人事評価制度を改定することになった。その際、1990年代に策定した成果主義人事からプロセス(働きぶり)を重視した制度への転換を図った。そしてプロセスを見るために評価面談などの手続きを充実させることにした。人事部は、この改定に当たって「成果だけでなく、成果とプロセスを評価する」「個々人との対話を重視する」ことを新評価制度の基本的な「考え方」に置いた。
一方、人材開発部がこの制度改定を知ったのは、新しい人事評価制度がほぼ出来上がってしまった時であった。その時、人材開発部の部長であるL氏は、これまでの評価制度の中で個々人の課題に沿った育成がカバーしきれていないと感じていたことから、人事評価における面談や評価基準を、育成にもっと活用していけたら、と考えていた。そして、人事部に働きかけて、ほとんど完成間近だった新評価制度の「考え方」の中に、「本評価制度は育成に活用する(できる)」旨を組み込むことに成功したのである。
しかし、残念ながら、いざ新評価制度の運用が始まると、実際には育成に活用されることはなかった。なぜなら、どのように育成に活用すればよいかという「展開方法」について何ひとつ盛り込まなかったからである。