論壇 間接的な貢献を目標管理に入れ 基準を明確にして評価する 報酬と貢献のバランスが取れる成果主義制度の運用
昨今、批判の的として成果主義が、大きくクローズアップされた。
しかし、代替案がないまま、いまだに多くの企業が導入しているのが現状だ。
だが、成果主義の考え方は「貢献度に応じて処遇する」というシンプルなもの。
本稿では、このシンプルな考え方がなぜ、歪んだ形で運用されてしまうのか、そして、どうしたらよい運用ができるのか、具体的な手法を交えて考察する。
代替案のないまま批判され続けた成果主義
成果主義という言葉が広く使われるようになったのは、今から10数年前。その背景には、バブル崩壊に伴う企業業績の悪化のもと、増え続ける人件費を抑制しようという狙いがあった。また、高業績者とそうでない人に評価の差をつけ、高業績者のモチベーションをさらに高める目的もあった。従業員間の競争意識を高め、企業全体の業績向上を意図したのだ。
そして現在、成果主義という言葉は、どちらかというと口に出してはいけない言葉のような扱いをされている。今でこそやや下火になったが、成果主義の批判記事を掲載すると出版部数が増えるということで、マスコミや出版界も大いに取り上げた。
では、それだけ批判された結果、実際どうなったのかというと、成果主義をやめて年功序列に戻した企業はほぼ存在しない。私は仕事柄、大手企業を年間100社以上訪問しているが、私の知る限り1 社もない。ほとんどの企業は、程度の差こそあれ、相変わらず成果主義的人事制度を運用している。
成果主義に対する批判は一世を風靡したわけだが、その対象となった問題点である成果主義は相変わらず存在し、運用は続けられている。また、批判をしてもその代替案を具体的に提示した人もいない。どうしたらいいのかという議論は進んでいないのが現状だ。
成果主義が真に求めていた貢献と報酬のバランス
成果主義とは、もともと「貢献度に応じて処遇する」といういたってシンプルな考え方に基づくものであり、これ自体に反対する人はほとんどいないはずである。批判の多くは考え方に対してではなく、運用の実態に対してといってよい。
ここで「貢献と報酬のバランス」という考え方を紹介したい(図表1)。
組織で働く個人は、組織に対して何らかの貢献をすることによって報酬を得る。自分が行った貢献と受け取る報酬のバランスが取れていれば、個人の満足度は向上する。モチベーションが高まり、組織へのロイヤルティーも高まる。このバランスが崩れる(貢献>報酬)と、不満が発生したり、場合によっては退職を考える。
つまり、評価制度はこの2 つのバランスがうまく取れていることが重要となるのだ。このことは、ほとんどの人が理解していることだが、留意すべきは、貢献と報酬の中身である。
貢献は大きく分けて2 種類存在する。「直接的貢献」と「間接的貢献」だ。直接的貢献は、個々人のメインミッションというべきもので、営業職なら“売る”ことであるし、製造職であれば“作る”ことである。
一方、間接的貢献は、部下・後輩の育成や他者への支援・協力などである。
ここで、ご注意いただきたいのは、間接的貢献とは、あくまでも組織の生産性を向上させるような貢献を指すということだ。他者への思いやりとか相互協力の心を持って接するという精神論の話ではない。他者に協力・支援した結果、他者の生産性が向上して初めて間接的貢献と言える。たとえば、営業職で壁を感じている後輩にアドバイスをした。その結果、アドバイスを受け入れた後輩が受注できた、ということが重要なのである。
報酬にも2種類ある。「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」である。金銭的報酬は文字通り給与・賞与など。福利厚生も現物支給と考えれば、金銭的報酬の仲間と考えてよい。もう1 つの非金銭的報酬は、能力開発や働きがいなど、金銭には反映されない報酬である。大部分は、マネジャー(直属の上司)によってもたらされる。仕事の与え方や日常的なコミュニケーション・OJTの仕方によって、能力開発の機会が増減したり、仕事のやりがいが左右されるのだ。