企業事例 ニコン メンタルヘルスをタブー視せず 社員同士が話し合える 職場づくりが不調者を減らす
日本を代表するカメラメーカーの1 社、ニコンでも他の企業と同様、社員のメンタルヘルスに配慮する必要性が出てきたという。
同社では、メンタルヘルス不調にはいくつかの原因が絡まり合っているが、その多くには「コミュニケーションの欠如」の影響が大きいことに気づく。
そしてコミュニケーションを軸に、メンタルヘルス施策を「人材、そして会社全体の活性化」を目指すものと位置づけ、不調者を出さない職場づくりに努めている。
カウンセラー導入から全社的な取り組みへ
世界に名高い日本のカメラメーカー、ニコンがメンタルヘルス施策の手始めとして社内カウンセラーを導入したのは、今から14 年ほど前のことである。しかし当時、それほど危機感はなかったと、カウンセラー導入の担当者で現在、人事部安全衛生厚生課のマネジャーである田村元一氏は言う。
「その頃は、ブームと言ってもいいほど、企業がメンタルヘルスへの関心を高めていた時期でした。正直に申し上げて、弊社でもその流れで決まったという感じです。しかしカウンセラーの選定に関しては、信頼の置けるコンサルタントに相談して臨床的な専門医ではなく、むしろ社員が気軽に相談できるカウンセラーをご紹介いただきました」
田村氏はその後まもなく、関係会社へ出向。10 年近く本社を離れ、2004年に現在の安全衛生厚生課に戻った。そして、改めて社内のメンタルヘルスの動向を調べてみたところ、カウンセラーの数が増えていたこと以外、その取り組みは10 年前とあまり変わっていないように映った。
当時すでに、ビジネスパーソンのうつ病や過度のストレス環境といった問題は社会的にも深刻化しており、ニコンも例外ではなかった。田村氏は念のため、メンタル系の病気で長期休業*した社員の数を年ごとにチェックした。
「結果この10 年間、長期休業者の数は右肩上がりで増え続けていたのです。せっかくカウンセラーを増やしても、厚生労働省指針の“4 つのケア”との連携や、マネジメント層に対する教育など他の施策が不十分なままで全社的な取り組みにつながっていなかったのです。また、非常にデリケートな問題だといっても、会社としてメンタルヘルスについて、必要以上に距離を取り過ぎたことにも原因があったと思います。しかしこの時ばかりは、私もさすがに危機感を持ち、関係各部署と協力して、会社として取り組むべきメンタルヘルス施策の方針策定にすぐに取りかかりました」(田村氏、以下同)
行き着いたのはコミュニケーション不足
最初に田村氏が行ったのは、何より現状把握であった。先の長期休業者数や、事業所ごとに設置されている健康支援室への相談数などのデータを改めて集計。そこから原因と傾向を見出していった。しかし、原因の特定となると、とてもではないが一筋縄ではいかなかった。
大きな傾向として、メンタル系疾患で休業する社員は、研究・技術・開発系社員に多いことがデータで裏付けられた。昨今の激しい技術開発競争を背景に、研究・技術系社員1 人ひとりにかかるプレッシャーも仕事の量も増えている。その負荷が社員に与える影響は少なからずあることは予想できた。
しかし、プレッシャーやストレスが強いと思われる職場に、休業する社員が明らかに多いという確固たる事実はなく、それが主要な原因であるとは言えない。実際、労働環境というパラメータがどのように影響を及ぼしているかを検証するため、時間外労働が特に多い技術開発の職場の社員に対してストレス診断を行った。結果は「ストレスはあるが、仕事に対する満足度は高く、メンタルヘルスは良好」。総じて、職場環境が現在の増加傾向の大きな要因とは考えにくかったのである。
そして、田村氏はさまざまな部署の管理者や専門家などから話を聞く中で、ある1 つの結論に達した。それは、近年のメンタルヘルス不調には、仕事のやり方が変わってきたことによる“コミュニケーション不足”が、かなりの影響を及ぼしているのではないか、ということである。