企業事例 オリンパス ソフトウェアテクノロジー 社員の正確な理解を促し 早期発見と原因分析で メンタル不全を大幅改善
メンタルヘルス対策を効果的に行うには、早期発見・早期治療が重要とされる。
しかし、そうしたシステムを構築し、浸透させるのは並大抵の労力ではなく、多くの企業が躊躇しているのが現状だ。そんな中、オリンパス ソフトウェアテクノロジーは、トップの理解のもとに、メンタルケア専属の部署を設置。
専属ならではの機動力で、きめ細かな支援と問題原因の解決に努め、同社のメンタルヘルス状況の大幅な改善に成功した。
メンタルシックに対して3人の専任でのぞむ
映像や医療機器などの精密機械、ライフサイエンスの分野で知られるオリンパスグループ。それらオリンパス製品に組み込まれるソフトウェアの開発を担っているのがオリンパス ソフトウェアテクノロジー(以下、O-Soft)だ。
同社は2006年7 月、オリンパスシステムズから分社・独立した会社で、分社化と共に大手経営コンサルティング会社から新社長を迎えた。その社長の天野常彦氏は、IT 業界には思いのほかメンタルシック(同社のメンタルヘルス不全の呼称)に陥っている社員が多いことに危機感を持ったという。IT 業界のメンタルシック発生率は、一般企業に比べて2、3 倍という報告もあるほどである。そこで「社員のメンタルシックは3 つの喪失(労働力、利益、ブランド価値)につながる」との認識に立ち、社長直轄のプロジェクトを立ち上げ、2008年2 月に「メンタルケア相談室」を発足させた。
メンタルシックの発生率が高いIT業界とはいえ、一企業が産業医以外に相談室を設けて3 人の専任を置き、その対策に注力している例は、大手企業でもほとんどない。しかし、O-Softの天野社長は、「休業者が1 人出ると、代替要員の確保などで月に50 ~ 100万円の損失が発生する。専任者を3 人置く価値はある」と見ているという。
メンタルケア相談室の設置以前から、総務として社内制度や職場環境の整備に奔走していたのが、エンジニア(SE)出身の小杉佳代子氏である。相談室の設置と同時に室長に就いた。
「前身であるオリンパスシステムズの総務部時代からメンタルヘルスに関する仕事が急に増え始め、総務の仕事と兼務では対処しきれなくなっていました。相談室ができた頃には、相談者のデータが結構な量になっていました」
そう当時を振り返る小杉室長は総務部時代に、書籍や雑誌で学ぶだけでは個々人の対応は難しいと考え、社会保険労務士と産業カウンセラーの資格を取った。そして1 人ひとりの状況をきちんと把握するために、かかわった相談事について、その具体的な内容から、本人の状態、対処方法、上司との相談内容、やり取りしたメールに至るまで、漏れなく記録に残してきた。さらに、原因を明らかにするために本人の上司や周囲にヒアリングを行い、情報を蓄積してきたことによって、同じ症状の相談者が現れた時に、迅速かつ適切な対応ができるようになった。これらは今や、相談室の財産になっている。
こうした中で2 人の専任メンバーが加わった。人手が増えたことで、社員1 人ひとりに細かく目を配ることができるようになり、相談室のメンバー自ら社員に声をかけて早期発見に努めてきた。これまで「メンタルシックの疑いのある社員は自分から相談に来ない」という傾向があったからだ。
実はこのメンバー2 人もSE 出身である。仕事の内容ばかりでなく、現場特有の問題にも理解が深く、会話もスムーズに進む。相談者の立場や状況に応じた対応ができるメリットは大きい。
新入社員は入社直後からメンタルシック予防を学ぶ
メンタルケア相談室の主な業務は相談対応、いわゆる“面談”だが、業務内容は多岐にわたっている。たとえば、新入社員や中途採用者へのオリエンテーション、一般社員や管理職に向けたメンタルシック予防のための学習機会の提供、さらには休職者や復職者に対する支援、各部門における対応指導や発生原因分析、産業医や専門医との連携などだ。