My Opinion③ 人事が本来の役割を果たすことが 最も効果的なメンタルヘルス対策
会社を休んでも遊びには行ける――経済環境だけではなく、こうした「現代型うつ病」の増加など、“人間側”にも変化が起き、企業の人事部門が抱えるメンタルヘルスをめぐる課題も変化してきている。
従来と同じ対応をとっていては、もはや解決には向かわないのだ。
そのためには、医療の観点も大切だが、労務管理を軸とした、人事部門が本来担っている役割と責任を果たすことが、以前にも増して重要になってくるのである。
日本企業の人事が抱えるメンタルヘルス6つの課題
私はこれまで日本企業の総務や人事に携わってきた。この経験やコンサルティング経験をもとにメンタルヘルスの「事前対策」を考えた時、現在の日本企業の人事部門には以下の6 つの課題があると私は考えている。
①問題の矮小化
一般的に、大企業におけるメンタルヘルス対策は、「健康支援室」などの名称を冠した部署が担当している。業務にはメンタルヘルス対策を含んではいるものの、人事担当者と産業医や保健師等との連携により、定期健康診断や感染症対策など産業保健全般に関する業務を行っているのが実情である。そのため、医療的観点からのアプローチが主となり、社員の心身の不調ばかりを観察することになる。その結果、他にも、労務管理や組織のあり方など、メンタルヘルスにかかわる別の要因があるにもかかわらず、それらについては見落としが多くなっている。
②対応が局所的
多くの企業では①の結果、対応が局所的になってしまい、医療体制以外の他の要因への対応ができない状況に陥っている。会社という“バケツ”にさまざまな“穴”が空いているのに、肝心なところを塞げない状態となっているのだ。
③「全体像」が見えるスタッフの不足
こうした状況が起きてしまっているのはなぜか?
それは、企業の「全体像」を見ることができるスタッフが健康支援室などの、メンタルヘルスを司る部署に配属されていないからである。
メンタルヘルスは、実は経営理念、企業ビジョンに始まり、企業の成長段階や風土、労働関連法令や労務管理、事業モデル、チームビルディング、人事評価、教育体制、採用等々にかかわる総合的な問題である。しかし、健康に関する部署の担当者には、元々健保組合や福利厚生などを担当している人が就く場合が多い。するとどうしても、経営や人材マネジメントなど、会社全体を見据えた視点からメンタルヘルス施策を考え、行っていくことは難しい。
もちろん、メンタルヘルス問題の解決を医療の観点からスタートすることは間違いではない。ただし、仮にそこで“100 点”を取ったとしても、他の部分がまったく手つかずでは、期待される効果が出ないのも当然である。
④大不況期の到来
さらに、リーマンショックの影響が出てきた2008年9 月頃から、企業における重点課題が大きく変わった。これ以前は、メンタル不全の原因となる過重労働などを企業も問題視していたが、現在では一般社員の雇用をどう継続するかなどが大きな問題で、メンタル不調者に対する支援にまで手が回らない状況である。CSR(企業の社会的責任)的な観点でのメンタルヘルスへのアプローチから、リスクマネジメントやコスト管理といった観点からのアプローチへと舵が切られつつある。