My Opinion① メンタルヘルスの次の一手は セルフケア、リーダーシップと 人的資源管理
メンタルヘルス不調の弊害は、すでに多くの企業で問題視されている。しかし、その認識の拡がりとは裏腹に、厚生労働省が5年ごとに行っている労働者健康状況調査によれば、仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスを感じている」という労働者の割合は近年、60% 前後で推移しており、減少の傾向にはない。また労災請求件数も増加しており、問題解決の道はいまだ遠いようである。
これは従来、企業で行われてきたメンタルヘルス対策が、効果を発揮していないことを表している。
そこで、「次の一手」として重要となるのが、セルフケア、リーダーシップ、人的資源管理(HRM)の3つである。
昨今のメンタル不全には丁寧な個別対応が必要
私は35年間にわたって、職場のメンタルヘルスの問題に取り組んできた。実はこの間、企業が行っている施策はほとんど変わっていない。医師やカウンセラーといった産業保健スタッフを配置し、メンタルヘルス不調(以下、メンタル不調)の早期発見・治療、そして早期職場復帰を実現させるべく多大な費用を投入している。だが、メンタル不調者の数は減ってきていない。従来のやり方には限界があり、根本的な解決に向けて手を打つことが必要であるということだ。では、次の一手として何をすべきなのだろうか。私は、以下の2 つの視点から対策を立てることを提案する。
①「疾病モデル」からの対策ではなく、「適応モデル」で対策を立てる
②人事部門による「HRM(人的資源管理)」、上長による「リーダーシップ」、従業員各自の「セルフケア」の3 方向から問題点を探る
まず①についてだが、図表1 を見て欲しい。これは、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の「職業性ストレスモデル」を一部改変したものである。仕事上のストレス要因(職場環境や人間関係など)がストレス反応を引き起こし、その状態が継続すると疾病につながることを示している。さらに、その媒介変数として、個人的要因(性格や年齢など)、仕事外の要因、緩衝要因(他の人からの支援)の影響が大きい。これらの変数の違いによって、職場で同じストレス要因にさらされた場合でも、個人によって表出するストレス反応が違ってくるのだ。これが「適応モデル」の考え方である。
一方、「疾病モデル」とはまさに、メンタルヘルスの問題も「疾病」としてとらえること。身体の病気では病原菌対策などを行うが、それと同様に、原因は明確だと考え、医療的対応をとるものだ。精神疾患の中でも統合失調症(精神分裂症)や双極性障害(躁うつ病)、内因性うつ病などは、社会環境の違いによらず、どこの国でも一定の割合で発生することが知られている。これらについては、産業保健スタッフ(精神科医やカウンセラーなど)による医療的対応が最も効果的である。
ところが昨今では、上司によるパワハラなど、心理・社会的ストレッサー(ストレスを与える刺激)が原因でメンタル不調に陥る人が増えている。また、昨今のメンタル不調はケースによって状況がまったく異なる。原因が1 つではない場合や、根本原因が職場にある場合が多いのである。となれば、予防するにも疾病モデルでの対応を得意とする医療スタッフを増やすだけでは効きめがない。よって、適応モデルで考えることが重要であり、個別のきめ細かい対応が求められるのだ。