連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第 29 回 マンガは魅力的な 人材教育ツール

科学的分析と芸術的ひらめきで新しい教育コンセプトを設計
さっきから、先輩インストラクショナルデザイナーのジェニファーが持っている蛍光ピンクのノートが気になって仕方がない。所は夏の盛りのニューヨーク。時は早朝ミーティングを終えた後の早めのランチタイム。マンハッタンのMOMA(ニューヨーク近代美術館)の2 階、熱々のラザニアがちょー美味しいイタリアンレストラン“Cafe2”でのことだ。
表紙にパッチリまつ毛の瞳のイラスト、無地のノートの間にカラフルなハイヒールやダンサーのイラストが散りばめられたそれは、インストラクショナルデザイナーたちの間でちょっとしたブームになっている、ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホールがデザインしたアイデアブックである。
そのド派手なノートに、ジェニファーがカラーペンを使って楽しそうに描いているのは、新しいトレーニングコースのシナリオ。見開きページを明るいブルーの蛍光ペンでざっと4 等分し、1 コマめに「アクト1:セットアップ(状況設定)」、2・3 コマめに「アクト2:コンフリクト(葛藤)」、そして最後の4 コマめに「アクト3:ソリューション(問題解決)」と記し、学習者を主人公にした4コママンガを描くように、ラフなストーリ―をスピーディーにつくっていく。導入と結論は端的にして、全体の50% を占めるアクト2 でハラハラ、ドキドキの冒険、危機、失敗を味わわせるのがミソである。
なんでも「ハリウッド・ストーリーテリング」というシナリオ術をベースにしたコンテンツ・デザイン手法なのだとか。米専門家P. パリッシュの『インストラクショナルデザインの美学(Aesthetic Principle forInstructional Design)』がトレンドになっている昨今、魅力的で芸術的で人の心を打つようなストーリーテリングの技術を開発するために、デザイナーたちはさまざまな試みをしている。一方でPC を駆使して科学的に緻密な分析を行い、一方でピンクのアイデアブックを開いておしゃれでカワイイマンガを描くという、データとひらめき、サイエンスとアートという相反するものの接点から、新しい教育デザインのコンセプトが生まれるのだという。