連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 組織変革の実現には 教育が不可欠

「教育は組織変革のツールの1 つ」と語るのはローソンの人財開発部長、中村剛氏である。2004年にローソンに入社して以来、教育制度の見直しに取り組み、新浪剛史社長が2002年より推進してきた組織変革を教育の面からサポート。その組織変革の要は、自律した個を育て組織を強くすることだと語る中村氏。中村氏自身、自律的に勉強を続けてきた人材でもある。新入社員には「自らを高めるためであれば会社を踏み台にしてもかまわない」と鼓舞するほど、自ら学ぶ意欲を重視している。そんな中村氏の教育にかける想いを聞いた。
変革の担い手である従業員の意識を変える
「組織変革の実現には、教育は不可欠」と、ローソンの人財開発部長、中村剛氏は断言する。ローソン大学事務局長も兼任する中村氏が、さらに経営戦略ステーション戦略企画の仕事も兼任しているのは、ローソンが教育によって社員の育成だけでなく組織風土をも変えようとしているからだ。「我々が提供する教育には、職能訓練と組織風土の醸成という2 つの目的があります。企業戦略に合致した風土をつくるためには、教育は重要なツールなのです」と、中村氏は続けた。
今でこそローソンの教育を一手に担っている中村氏だが、そもそもの始まりは「IT を活用した業務改革を実現するための一員となって欲しい」とローソンから誘いを受けたことだ。ローソンへの入社を決めた2004年当時は、まさか自分が教育担当となるとは夢にも思っていなかったと笑う。
それまで中村氏は、いわゆるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)──企業全体の業務内容や業務プロセスを見直し、主に情報システムを利用して最適化する業務改革──に注力してきたので、門外漢とも言える教育の仕事に不安を感じた。引き受けるに当たってはずいぶん悩んだという。
もっとも、業務改革や企業戦略を実現するためには、トップの意思を社内に浸透させて従業員の意識を変えることが前提となる。そのための広報活動の一環として研修も行う。その意味で中村氏は、「教育はBPR を進めるうえで欠かせない要素」という認識を持っていた。結局、最初に勤めた大手コンビニエンスストアでもBPR のためのIT 教育導入に携わっていたこと、加えて新浪剛史社長の人材教育に対する想いに共感したこともあって、中村氏は教育担当の仕事を引き受けた。
学び続けることで将来の自分に投資する
中村氏がコンビニエンスストア業界を活躍のフィールドに選んだのは、大学を卒業した1992年頃、ちょうどIT時代の波が押し寄せ、環境が大きく変わろうとしていたことが大きい。
学生時代、新聞社でのアルバイトを経験し、“情報”に興味があった中村氏は、いずれ一般家庭から一番近いコンビニエンスストアが情報通信の拠点となると考え、大学卒業後に大手コンビニエンスストアに入社する。ここで、高度な情報システムを活用して事業を構築する仕事に携わりたいと思っていた。しかし配属されたのは、他の新入社員と同様に店舗管理を担うスーパーバイザー(以下、SV)の仕事をする部署だった。
コンビニエンスストア業界におけるSV は、本部と加盟店をつなぐパイプ役として、加盟店のオーナーに対して、経営全般のアドバイスとノウハウの提供を行い、オーナーと一緒に店舗の売り上げ・利益の向上を目指す役割を担う。つまり、オーナーの経営上の悩みや課題に適切なコンサルティングを行うことが求められるのである。ところが、オーナーの大半は、新卒で配属されたSV から見れば自分の親よりも年上の世代。彼らの信用を得るのは、容易なことではない。
しかし、中村氏は前向きだった。希望した職種に配属されなかったものの、SV の業務をこなし、評価はつねにトップ。さらに、人一倍SV の仕事をしたうえで、希望職種の勉強もし続けた。書籍からの情報以外にも社外勉強会に参加するなど、将来の自分のために投資を惜しまなかったのである。
そして、転機は6 年めに訪れた。社内に「情報戦略室」が新たに設けられたのである。BPR の仕事に携わりたいと望んでいた中村氏はこの部署への異動を願った。そこで、「IT を活用して情報の流れをスムーズにして現場の業務改善を実現すること」を提案する論文を提出。当時、中村氏が在籍していた会社では、社員から論文を募集し、優秀者は希望の部署に異動できるという制度があったのである。
この論文が高く評価され、1998年、中村氏は念願の情報戦略室へ異動となる。ここでは、現場のBPR、社員の意識変革、そしてパソコンやe ラーニングの導入を行うことになる。この時、IT 教育の企画、運営を任され、初めて教育に携わることになった。パソコンに触ったこともない社員にパソコン操作のノウハウを教えるのだ。
「ただのパソコン操作研修にはしたくありませんでした。操作を教える前に、パソコンで何ができるようになるのか、パソコンがある前と後で、ビジネスがどう変わるかをイメージしてもらうことから研修をスタートさせました」と、中村氏は当時を振り返る。本当に使ってもらうためには、スキルを教えるだけでなく、意識を変えてもらうことが重要なのだ。この経験は、中村氏が研修は業務改革のツールとなると気づくきっかけにもなった。