連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第 30 回 eラーニングに吹いた ルネサンスの風
景気低迷による意気消沈は日本も韓国も同じ
ソウルの中心にあるサムチョウンドンは、東京で言えば“裏原”(原宿の裏通り)のようなスポット。小高い丘には伝統的な瓦屋根の町並みが広がり、内部が改装された建物は、新進デザイナーのかわいいアクセサリーショップやブティックになっている。その一角にある人気カフェ「チャ・マシヌン・トゥル」(お茶を飲む庭という意味)で、韓国の語学研修会社のインストラクショナルデザイナーのキム・ヒョンスさんと、五味茶にいちごシロップを入れた冷たいコッオルム茶を飲みながら、9 月2 日~ 4 日に開かれたe ラーニングカンファレンス・アジア2009国際会議(eLAC 2009)のことを話した。
いつもイケイケなヒョンスさんだが、今日はいささか元気がない。というのも、韓国ではリッチなエデュテインメントコンテンツに代表されるe ラーニング熱が冷めてきたから。ちょっとやり過ぎ感もあった、国を挙げてのIT 戦略にも疲れが見えるという。「明るいビジョンが見えないのに、目の前の競争に勝てと言われても、続かないのよねぇ」とため息をつく。
会議でも、エネルギッシュで魅力的だったのは地元韓国ではなく、ヨーロッパから参加した3 人のスピーカーによる「ラーニング・ルネサンス2.0」の話。一企業や、単一国家レベルではなく、グローバル・マーケットを視野に入れた新しい仕組みをつくるという内容と、ルネサンスという言葉が示す世界の文化を変えるような夢のあるテーマに会場が沸いた。
ICTだからこそ実現可能な学びのグローバルネットワーク
まず、「ディスカバリー・オブ・インフォーマルラーニング」について語ったのは、英国オープンユニバーシティー(OU)のデヴィッド・ヴィンセント教授。OUの在学生は(私も在学しているが)、大学で学位を取得している社会人がほとんど。人生を通じて、常に新しい、より高度な専門知識を身につけるために、このオンライン大学で学んでいる。世界中から数万人の学生がアクセスしているそのOU が新たな挑戦として取り組んでいるのが、オープン・ラーンというインフォーマルラーニングだ。学位取得にフォーマルとインフォーマルのボーダー(国境)をなくし、「すべての場所の、すべての人に、すべてのアイデアとサービスとコミュニケーション環境をオープンにする」というコンセプトのもと、持続可能なラーニング環境を無償で提供。すでに40万人のオープン・ラーナー(新時代のインフォーマルな学習者)を抱え、さらにiTunesU などの新サービスも加わったこともあり、ユーザーはどんどん増えている。
目指すは既存の大学を巻き込んだ、革新的なラーニング・コミュニティーの形成だ。すでにスタンフォード、イェールなどの有名大学も含む世界規模のリサーチ・ユニバーシティー* が形成されつつあり、莫大な利益をもたらす未来の巨大市場という分析もある。