連載 調査データファイル 第93回 デンマーク・オランダモデルに見る労働市場の改善策 適正雇用と格差是正が 派遣問題を解決に導く
小泉構造改革がもたらしたワーキングプアや失業者の増加。
その主原因は労働者派遣法改正による製造業への派遣労働解禁であったが、是正策としての短絡的な規制強化は、雇用機会を縮小するばかりか、実態を把握しにくい請負労働へと流れる危険性をはらんでいる。
この負のスパイラルを断つためには、派遣労働者の雇用と解雇の繰り返しを禁止し、教育機会を拡大して安定した労働力に育て上げることである。
世界的に見て失業率の低いデンマーク・オランダモデルの労働政策を例に、日本の派遣労働問題の改善策を考える。
1. 小泉構造改革により製造業派遣が急増
新たに政権を担当することになった民主党は、小泉政権が推進した労働市場の規制緩和とは逆の政策を進めようとしている。小泉政権は深刻な不況から抜け出すためにさまざまな構造改革を実施し、不況からの脱出に成功した。中でも金融改革は、最も成功した政策であったと言えよう。たが、労働市場改革は金融改革のようには成功せず、むしろ格差の拡大やワーキングプアといった貧困層を増加させるなど、さまざまな副作用が顕在化してきている。
労働市場改革の目玉となったのは、労働者派遣法の改正だった。2003年以降の経済成長は、主に自動車産業を中心とした製造業の生産拡大によってもたらされたが、生産変動に柔軟に対応できて、しかも低コストの労働力として派遣労働が、景気回復の過程で注目されるようになった。
そもそも生産現場は、正社員中心の労働組合にとってはホームグラウンドともいえる領域であり、そこでの派遣労働解禁には労組が強硬に反対していた。だが、規制緩和・撤廃による構造改革を推し進めた小泉政権は、2002年の総合規制改革会議「第2 次答申」を受けて、2004年には労働者派遣法を改正して製造現場への派遣を解禁した。国内回帰を強めた製造業は、こうして生産増に対する労働需要の多くを派遣労働で賄うことになったのである。
製造現場への派遣労働解禁によって、それまで第三次産業が主な派遣先であった派遣労働の世界は一変、製造業での派遣労働者数が急増した。総務省「事業所・企業統計調査」によれば、2006年には製造業で働く派遣労働者は100万人を突破しており、第2 位の卸売・小売業の2 倍以上の規模にまで膨れ上がっている(図表1)。
2. 派遣労働の規制強化にはリスクも潜在する
だが、リーマンショック後の急速な景気悪化で顕在化した“派遣切り”は、派遣労働者が大量の失業者となったうえに、ホームレスといった想定外の状況に陥る者も多数現れた。製造派遣解禁前の派遣労働は、自宅から通勤する女性が主体であったのに対して、製造業の派遣労働者は、男性中心で全国から集められて各地の工場に配置された。そのため、派遣切りによって寮から追い出されると、ホームレス化することになったのである。
その背景には、派遣労働者をはじめとする非正社員の多くには、失業保険のセーフティーネットさえ用意されていなかったことがあった。そこで政府は、短期就業を繰り返す派遣労働者も失業保険の対象とし、職業訓練期間中の生活費も支給するなど、雇用保険制度などを相次いで改正した。