論壇 組織が求める実践力のある人材を育てる プロジェクトラーニング
研修の本来の意義とは無意味に知識やスキルを身につけることではない。
研修を受けて人が成長することにより、事業が成長もしくは発展すること、あるいは新規事業が創造されることが求められているのだ。そこで、本稿ではそうした実践力を育む手法としてアクションラーニングをより実践的にしたプロジェクトラーニングの4つのタイプ──①事業構想型、②事業戦略型、③施策立案型、④施策実行型を紹介する。
研修の意義は“意志と行動”の誘発
研修は、読んで字のごとく、“研(みが)いて修(おさ)める”ことである。“研く”というのは、知識やスキルを習得することだと思えばよい。一方、“修める”とは、事業を創造、成長もしくは発展させるために、習得した知識やスキルを、我が事として心身に擦り込み活用していくという意志と行動を育むことだと思えばよいだろう。
多くの企業では、“研く”プログラムは花盛りであるが、“修める”ための研修を行っている企業はさほど多くない。だが、“研く”より“修める”ほうが大事であることに異論はないだろう。研修は、ビジネスにおける人への投資であり、その最大リターン(すなわち人財開発効果)が期待される。その目的は、繰り返しになるが、最終的には事業を成長もしくは発展、創造させるためである。そこに結び付かない知識やスキルの習得は無意味だ。
こう考えると研修の本来の意義は、今の仕事に問題意識を持ち、それをより良いものにしていくために必要な知識やスキルを学び、目的意識を持って実際の仕事にコミットメントし、結果を出すという“意志と行動”を誘発することにある。
プロジェクトラーニングで実践力を養う
ところが、昨今の企業の研修実態を見るにつけ、実践的な“修める”学習の何たるかに悩んでいる担当実務者が多いことは誠に残念である。実践的な学習を行うには、2 つのポイントがある。
1 つは、研修教材は実際のものを使わなければならないということである。架空のケースや出来合いの教材には文脈(コンテキスト)が不足している。“研く”段階では知識やスキルを客観的に扱えばよいが、“修める”段階となると総合知が必要となるため、文脈(コンテキスト)を持った教材を共感的に理解することが大事になる。端的に言えば、自分たちの事業課題について考えることが一番である。
2 つめは、時間を使って課題解決に取り組んだ結果として必ず、事業責任者や経営陣に対して提言を行うことである。研修の目的は事業の成長もしくは発展、創造であるから、事業責任者や経営陣の期待に応えるものでなければならない。この提言という出口があってこそ、受講者側に研修に対するコミットメントが生まれるのである。
このような2 つの要点を備えた実践力を鍛える研修には、プロジェクトラーニング方式が最適である。
プロジェクトラーニングは、アクションラーニングをより実践的にしたもので、イノベーションを創出する行動を推進するために、人と組織に学習を促進する一連の方法論である。少人数のプロジェクトチームをつくり、課題を与え、決められた期限までに企画案の提示を求める。これにより個人およびチームが学習するものである。
本稿では、プロジェクトラーニングが、実戦的な学習の導入としてうまく活用されるように、その具体的な実践方法を紹介する。まずはあるサービス関連企業で行われたプロジェクトラーニングを見てみよう。
この会社では、顧客のニーズやウォンツをじっくり観察してビジネスを考えるためにはプロジェクトラーニングが最適だと判断し、社内のさまざまな職種から10名集め、新規事業の提案を課題とした。期間は約4 カ月で、メンバーは人事部が選定する。だが、あくまで本人の自主参加が基本である。
前半のインプットフェーズは隔週で延べ4 日間行われ、10名全員で一般的な経営理論やマーケティング、財務会計など、基本的な概念を学んだ。これに併せて社内外の新規事業ケースに基づき、どのようなプランや行動が望ましいか、イメージづくりを行った。
後半のアウトプットフェーズは3 ~4 名ごとに分かれて、オープンデータの収集、アンケートやヒアリングといったフィールドリサーチを重ね、議論を尽くして事業企画案を作成した。決められた招集日以外も自主的に集まり、作業を行っていた。
最後はプレゼンテーションである。相手は社長をはじめ、事業戦略室担当役員、人事部門、研究部門、財務部門、営業部門などの基幹部門のマネジャークラス。聞き手側は、プレゼンテーションの評価と、次の事業展開に向けてのアイデア発掘、人財の発見をする。
プレゼンテーションでは、写真やグラフはもちろんのこと、人脈を活かしてデザイン画やスケッチなどをつくり込んでくるチームもあった。“癒し”をテーマにしたチームは、場の雰囲気づくりのために小鳥のさえずりのBGM を流すことまでこだわっていた。