連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 学び合う風土が チームダイナミズムを生む
ディー・エイチ・エル・ジャパン人事本部オーガニゼーションディベロップメントマネージャーの牛島仁氏は、まさに人事のプロフェッショナルである。組織力を最大化させるチームダイナミズムに魅せられた学生時代より、企業の人事部に就職することを希望。自主的に職種別就職活動を行い、その想いを現在まで貫いてきた。社会人1 年めから人事全般の仕事に携わって経験を重ね、現在は組織力を高めるために個々人が仕事の中で自然と学び合う風土をつくることに注力する。その牛島氏に、これまでの仕事に対する取り組みと教育への想いを聞いた。
人材次第で変わるチームダイナミズムの魅力
2006 年より、国際総合物流を手がけるディー・エイチ・エル・ジャパン(以下、DHL)の人材育成を担っているのは、人事本部オーガニゼーションディベロップメントマネージャーの牛島仁氏である。
オーガニゼーションディベロップメントというネーミングには、個人の能力を最大限発揮させることで組織の業績を拡大するというDHL の人材育成に対する想いが込められている。企業教育の目的について牛島氏はこう語る。
「企業の人材育成は、業績向上を実現するためのもの。これを絶対に忘れてはなりません。しかし同時に、個人の想いを置き去りにするものであってはならない。そうした個々のマインドに配慮しながら個人の能力を高め、組織の力を強くするにはどういった仕組みづくりをすべきか。日々模索しています」
牛島氏は、個を活かして組織のパフォーマンスを高める“チームダイナミズム”の追求に、大学時代からずっと携わりたいと思い、企業の中でそれを担う人事に就職した。ここまで人事に対して想いを持つようになった原点は、なんと少年時代にある。
牛島氏は中学生の頃、世界の貧困問題に強い関心を持っていた。開発途上国の貧困を解決するには、どうしたらいいのだろうか……と、いつも考えていたという。高校時代には、将来は国連や世界銀行といった国際機関で働くことで、この問題解決に力を尽くそうと思い描くようになった。
そして1993 年、牛島氏は夢を実現すべくアメリカに留学し、政治学を学ぶ傍ら積極的にNGO やNPO の活動に参加した。だが、そこで現実を目の当たりにした――。
「NPO やNGO のメンバーたちは素晴らしい志を持っているのですが、彼・彼女らは組織を運営する手腕に欠けていた。それが当時学生だった私にも見えてしまったのです」
1 つのプロジェクトを成功させるためには資金を集め、人を雇って育成・活用し、組織運営をしていかなければならない。しかし、そのためのノウハウが構築されていなかったのだ。
志の高さだけでは想いは実現できない。自分も組織を運営する手法を学ぶべきではないか――そう思った牛島氏は、大学院で国際教育開発学を専攻。人的資源管理学や産業組織心理学を学んだ。
大学院で学ぶうちに、国際機関で働く前に、確実に収益を上げなければ存続できない民間企業で、組織運営を経験すべきではないかと考えるようになった。これを決定付けたのは、国連広報部での3 カ月にわたるインターンシップ経験だった。国連の仕事が官僚的に感じられ、違和感を抱いたのだ。「まずは企業に入ろう」――そう牛島氏は決意した。
企業の中でも人事部に狙いを定めたのは、人やチームを動かすことに興味があったからだ。高校時代から、世界中の仲間とチームを組んで多くの活動をしてきた経験から、チームの成果を上げるには、2 つの要因があることに気づいていた。
「それは、優れたリーダーの有無と適材適所の人材配置です。プロジェクトの成功・失敗はリーダー次第。優れたリーダーがいれば、チーム運営はうまくいきます。けれども、リーダーだけではダメ。仲間を牽引していくことには向いていなくても、たとえばお金の管理を任せたら右に出るものはいないといった人も必要なのです」
良いリーダーとはどういう人か、人をどうモチベートして、どうチームを動かしていけばいいのか。また、どういう人の組み合わせがシナジーを生むのか――こうしたことを追求したいと思ったからこそ人事の仕事を選んだ。