企業事例 マイクロソフト 後継者の発掘・育成を柱に タレントマネジメントを推進。 キャリア開発にも注力
環境変化を背景に人材戦略の見直しを行っているマイクロソフト。その実現のために導入したのが
タレントマネジメントだった。その最大の特色は、すべてがグローバル共通の枠組みで構築されていること。世界107 カ国で働く全社員に対して共通のプラットフォーム「キャリアモデル」を提供し、リーダー後継者となるハイポテンシャル人材の発掘・育成と、全社員を対象にしたキャリア開発に取り組んでいる。成長を促すための数多くの“仕掛け”がリーダー育成と社員のモチベーション向上に効果を発揮し始めている。
全世界で9 万人超の社員を抱えるIT 業界の雄、マイクロソフト。同社がグローバルに統合された人材開発のフレームワークづくりをスタートしたのは2004 年。その背景には、IT を巡るビジネス環境のダイナミックな変化があった。「すべてのデスク、すべての家庭にコンピュータを」というビジョンのもと、1975 年の創立から20年以上にわたって順調な成長を続けてきた同社だが、1990 年代後半から競争が激化。さらに2000 年代に入ると、グーグルという新たな競争相手も台頭した。そんな中、同社が目指したのは分断されていた視点の統合だった。
「高い技術で“クール”なソフトを開発していれば自然に売れていく、というような従来のスタイルから脱却し、お客様の多様な声から出発して統合的な研究やビジネスを展開するためには、人材も統合的に見ていかなければいけないという強いニーズが生まれたのです」と、同社でリーダーシップ開発を担当する小林いづみ氏は語る。
2002 年に打ち出された「世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をする」というミッションは、各個人の高い専門性に依存するだけで実現できるものではない。えてして“たこつぼ”に陥りやすい考えやプロセス、そして、そうした多様な価値を持った人材をつなぎ合わせて新たな価値を創造していくことが不可欠になるのだ。こうした「統合」へのシフトは、別々の場所で同じような開発をしていたりといったムダを削減することにも貢献していく。
このようにビジネスニーズに端を発したグローバルな人材開発のフレームワークづくりは、統合的なタレントマネジメントへと進化していった。
タレントマネジメントの柱は後継者の発掘・育成
マイクロソフトがタレントマネジメントで目指すのは、「サクセッションプラン(リーダー後継者の発掘・育成)」「タレントムーブメント(人材配置の最適化)」「キャリアディスカッション(キャリア開発機会の創出)」「デベロップメント(人材開発)」の統合。柱になるのはリーダー後継者の発掘・育成である。ここで注目すべきは「リーダーシップパイプライン」という概念だ。「我々が重視しているのは、リーダーに何かあったら誰が代わりを務めるのか、といった危機管理的な側面より、むしろ将来のビジネスニーズに応えるには、どんな人材をプールしておくべきか、という事前対策的なもの。それも本社の上層部のためだけではなく、その下のリーダーのための人材プール、さらにその下と多層のプールをつくることで、組織を縦断するパイプラインの構築を視野に入れています」(小林氏、以下同)
後継者育成は、現在のリーダーの責務。各層のリーダーそれぞれが、自身の後継者を選び、育てていくことで人材プールをつくっていく。リーダーシップパイプラインは同社が最も重視する仕組みの1 つであり、リーダーの重要な評価ポイントになっている。
ただし、こうした仕組みもコンセプトだけでは形骸化する恐れがある。そこで同社では1 年を通じ、タレントマネジメントを支えるさまざまなイベントを行っている。世界の各支社でも同じイベントが同時期に行われ、グローバルで時期を統一しているのが特徴だ。
まず、第1 四半期に行われるのが「パフォーマンスレビュー」である。社員1 人ひとりが前年に立てたコミットメントをもとに、マネジャーを交えて1年間のパフォーマンスを評価するイベントであり、ここでの評価が報酬を決定する。いわゆる目標管理面談であり、1 年間の振り返りを行い、次年度の目標設定につなげていく。
また、レビュー時のもう1 つの目的は、ハイポテンシャル人材の選定だ。各社員の将来の貢献度についての話し合いが行われ、次世代リーダー候補者として目星が付けられることになる。
第3 四半期に行われるのは「ミッド・イヤー・キャリアディスカッション」。いわゆるキャリア開発面談で、「どんなキャリアを積んでいきたいか」「それには、どんな経験やトレーニングが必要か」といったことを、直属の上司と1 対1 でみっちり話し合う。社員が「ここで貢献したい」「この職場なら成長できる」と思えるかどうかを左右する重要な場でもあるため、同社が力を注いでいる取り組みでもある。
そして第4 四半期には、「MS Poll」と呼ばれる調査結果をもとに、よりよい組織づくりのためのアクションプランを立てていく。全社員を対象に職場環境についてのサーベイを行い、組織の健康状態に問題があれば対処法を検討するわけだ。これは各職場の運営状況が示されるものでもあり、マネジャーおよびリーダーの評価指標の1つにもなっている。