My Opinion② 日本企業の風土に合った タレントマネジメントが 組織力を最大化する
人材の能力を見える化し、それを最大限活かすことを目指すタレントマネジメント。
米国企業では一般的だが、風土や慣習の異なる日本企業にそのまま取り入れてもうまくいかない。
米国では、ハイポテンシャル人材の発掘や人材配置の最適化に加えて、能力評価が報酬に直結しているからである。
日本企業でタレントマネジメントを成功させるには、能力評価を人事評価につなげず、育成に活かすことがカギになる。
人材発掘に有効なタレントマネジメント
タレントマネジメント──日本ではまだ耳慣れない言葉だが、発祥の地は米国である。米国には、そもそも1人ひとりにタレントがあり、それを磨くべきだという文化がある。「Sellyourself」というフレーズが象徴するように、自分の才能を企業に売るという考え方が普通だからだ。そうした文化的背景を踏まえ、米国企業では、社員1 人ひとりの能力に着目し、採用、育成、評価、報酬など一連の人事・育成のプロセスを総合的にマネジメントすることをタレントマネジメントと呼んでいる。その最大の目的は、ハイポテンシャル人材の“発掘”にある。
実は日本企業でも、一連の人事・育成のプロセスを総合的にとらえることの重要性は従来より認識されてきた。しかし実際は、各プロセスが連動していないのが現状である。ところが近年、日本企業においても「社内に埋もれた人材を発掘したい」というニーズが高まってきた。特に2000年以降、日本企業は、本当の意味で人材の重要性に目覚めてきたのではないだろうか。かつての成功モデルだけでは持続的な成長が望めなくなり、先行きの不透明さが増す今日、新たなビジネスを担える人材、ひいては会社の将来を担える人材が求められるようになったからだ。
バブル崩壊後の長い不況の時代を経た多くの経営者は、「事業戦略は人材戦略ありきでなければ具体化できない」と考えるようになった。その変化が端的に表れているのが、「人材」を「人財」と書き換える企業が増えてきたことだ。人材は企業のための単なる「材料」ではなく、企業の価値を生み出す「財産」そのもの──「人財」という言葉には、このような経営者のメッセージが込められている。人材から人財への変化が「人」に対する姿勢の変化を表すとすれば、タレントマネジメントは、日本企業にとっても人材戦略を具現化するための現実的なツールとなりうるのである。
特に選抜型教育は、階層別教育よりも1 人当たりにかける教育コストが高い。それだけに「より教育効果のある人材に提供したい」と考えるのは当然のことだろう。ところが、いざ選抜しようという段階になって、「社員の能力が“見える化”されていない」ということに多くの企業が気づいた。同時に、自社の事業戦略に合った、求める人材像さえ明確になっていない現実が明らかになったのである。
この文脈の中で、社員個人の能力の見える化と、自社の求める人材要件の洗い出しに取り組む企業が増えてきた。実は、これがタレントマネジメントの基本なのである。
タレントマネジメントは自律型人材育成につながる
日本企業が人材面でもう1 つ重視しているのが自律型人材の育成だ。これこそまさに、日本企業がタレントマネジメントで目指すべきところなのである。そこで押さえておきたいのが、タレントマネジメントの基本概念の1 つである「3Rings」だ(図表1)。
3Rings は「企業戦略(企業が求める人材像)」「個人のキャリア(将来どうなりたいのか)」「職場環境(自分は組織にどんな貢献ができるのか)」という3 つのリングからなる。自律型人材は、この3 つが揃って初めて育成できるというのが弊社のスタンスだ。