My Opinion① 社員1人ひとりに目を配ることが タレントマネジメントの本質
日本企業ではまだあまりなじみのない「タレントマネジメント」。
今までの人材マネジメントと何が違うのかがよくわからないという人も多い。
具体的には、1 人ひとりの能力やスキルを把握し、採用・育成・配置・処遇・保持という人材開発プロセスを経営戦略と統合して進めることで、企業の成長につなげることだが、その本質は、実は社員の1 人ひとりに目を向けることにある。
人材マネジメントの新概念
タレントマネジメント
米国における人材マネジメントの概念は、労働力の効率的な活用によって企業の競争力を高めることを目的に発展してきた。1920 年代に「人事管理」(Personnel Management)という概念が生まれ、それが1960 年代に「人的資源管理」(Human ResourceManagement)、そして1980 年代に「戦略的人的資源管理」(StrategicHuman Resource Management) へと変化していった。さらに2000 年代に入ると「タレントマネジメント」(Talent Management)という新しい枠組みの概念が登場した。
しかし、その定義がしっかりと定まっているかと言えばそうではない。米国の人材開発分野の会員制組織であるASTD(米国人材開発機構)とi4CP( 米人材開発系調査会社)は2008 年に次のような定義を提唱している。
「タレントマネジメントは、ビジネスゴールと整合性の取れたタレントの獲得や開発、配置のプロセスを通して、文化、エンゲージメント、ケイパビリティーとキャパシティーを構築することで、組織に短期的および長期的な成果を実現し、人的資本を最適化・最大化(Optimize)するホリスティック(包括的)なアプローチ」
この定義には、組織の人材マネジメントのために大事なことは全部盛り込まれている。この時ASTD とi4CP は、この定義に賛同するかどうかを問う調査も行い、回答企業の約83%が賛同したという。
また、ASTD と並んで米国の人事のプロフェッショナルが集まる組織SHRM(米国人材マネジメント協会)は、タレントマネジメントを次のように定義付けている。
「タレントマネジメントとは、広義では、現在および将来のビジネスニーズを満たすために必要なスキルと適性を持つ人を惹き付け、開発・維持し、活用するプロセスを開発することによって、ワークプレイスの生産性を向上するように設計された総合的な戦略、またはそのシステムを実施すること」
このSHRM の定義と、先のASTDの定義の両方に共通しているのは、企業戦略と人材管理を直結させていることである。
これを受けて私なりに解釈しているタレントマネジメントとは、「人材1人ひとりに焦点を当てて能力やスキルを把握し、そのうえで一貫した人材開発プロセスによって能力を開発し、企業の成長につなげる」ということである(図表)。