巻頭インタビュー 私の人材教育論 異質なものを理解し 乗り越えることが 人を育てる
東京・武蔵野市に本社を構える横河電機。早くから海外進出を始めた横河電機は、主力の制御事業における売り上げの約6 割を海外市場が占める。
今や日本を代表するグローバル企業の1つとなった横河電機の最大の課題は、グローバルな企業間競争を勝ち抜くこと。
その目標に向けて今年4 月、人材育成機能を集約し、社長直轄の人財本部を設置した。
最大の経営資産は人である
── 横河電機は今年4月、新たに「人財本部」を創設し、社長直轄で人材育成に乗り出したそうですね。経営管理本部が監督していた人材関連の機能をも社長直轄に切り替え、海外拠点との人事交流も活性化させていくことにしたとか。この大きな組織改編の背景には、どういった理由があるのですか。
海堀
最大の経営資産は“人”です。当社が人材を“人財”と表記するのはこのためです。
今回、人財育成を社長直轄としたのは、会社が成長し続けるためには、これまで以上に人が果たす役割が大きくなったということを、社員に理解してもらうためです。というのも、当社の業態が大きく変化しているからです。
当社は計測器メーカーとしてスタートしましたが、現在の主力事業は制御事業です。その売り上げのほとんどは、お客様のご要望に応じてツールやシステムを設計し、構築するエンジニアリングの付加価値に対するもの。つまり、エンジニアリングを担当するエンジニアの貢献度が、そのまま売り上げに反映されるのです。だからこそ、優秀な人財が必要なのです。
また、当社の売り上げの約6割は海外です。1950 年代からアジア市場に進出し、1980 年代以降は欧米市場にも成長の場を求め、積極的にグローバル展開を進めてきました。しかし、グローバルな企業間競争は熾烈を極め、制御業界のメインプレイヤーは現在、6社にまで絞られました。まさに、しのぎを削っているという状態なのです。これを勝ち抜くためには、グローバルな事業展開に合致した人財を育てなければなりません。
そして何より、我々が人財育成に対して危機感を持っているのは、実際に人が足りないという現状があるからです。欧米では、IT や金融の分野で働く人が増加する一方で、我々の業界で働く人は減り続けています。横河電機グループの社員となって現地で働いてくれる仲間を早急に育てないことには、商売が成り立たないのです。また、採用した現地社員には「横河イズム」を理解してもらうことが不可欠。ですから、現地社員を教育する役割を担う海外要員となる人財の育成も必要なのです。
このような背景から、求められる人財像は今までとは変わってきています。これを社員に訴える意味でも、私が先頭に立って人財育成に取り組む必要があると考えたわけです。
── 具体的には、どういった人材を育成したいとお考えですか。
海堀
一言で言えば、競争力の源泉となり得る人財です。横河電機グループの強みは、技術に対する高い信頼性と、「一度受注したプロジェクトは、どのような困難に直面しようとも、顧客の要望に応じて粘り強く調整し、絶対に完遂させる」といった姿勢です。これは、横河電機グループの企業文化でもある。この企業文化を理解し、体現できる人財を育てたいのです。さらには、海外の社員にもこの企業文化が醸成できるように、その伝道師となる人財を育てたいと考えています。
企業文化は、説明して育まれるようなものではありません。実践の場で、その精神を浸透させていくべきものです。しかし、「相手の立場に立って仕事に取り組む」といった心構えを伝えるのは簡単ではありません。日本人同士でさえ想いを共有するのは難しいのですから、外国人からは「なぜ、そんなことをするのだ」と説明を求められるかもしれません。我々は、こうした問いに行動をもって応えられる人財を育てたいのです。
もちろん、何でも日本式にやればいいというものではありません。日本には“お客様は神様”といった文化がありますが、欧米では“契約書が神様”。だから欧米では、契約書に記されていないことまで実施する必要はないのです。だからと言って、簡単にお客様の要望を無視するような行動は横河電機グループの企業文化に反する。この企業文化の本質をいかに伝えていくのか……。その意味でこれからの横河電機グループを担う人財には、強いリーダーシップや柔軟なコミュニケーション能力が必要と言えますね。
異質なものとの接触──人は環境で育てられる
── 御社が求めるような人材は、どうすれば育つとお考えですか。
海堀
人が育つには、さまざまなキャリアを経験することが大切だと考えています。とりわけ、“異質なもの”との接触が人を育てると信じています。
文化や習慣、さらには国だけでなく、キリスト教、イスラム教、仏教と宗教が異なれば、仕事に対する考え方はもちろん、仕事のやり方も違ってきます。そうした違いを理解し、乗り越えることで、強いリーダーシップや柔軟なコミュニケーション能力を獲得することができるようになると思うのです。