連載 HR Global Eyes 世界の人事 ニッポンの人事 Vol.6 お飾りでないインターン制度が 気概ある人材の獲得に役立つ
WHAT IS “会社員”?!
今はなくなったが、日本や欧州各国では、外国人旅行者なら誰でも「入国カード」というものを書かされた(欧州では英国だけが、米国同様頑固に維持している)。書くたびに戸惑ったのが「職業」(Occupation)という欄。日本のカードでは多くの日本人が「会社員」と疑いもなく記入する。しかし外国に入国する際、ハタと手が止まる。欧米の職業分類に「会社員」という項目はない。“Salaried Man”は和製英語だし“Employee”と書いても「雇われた者」という意味でしかない。日本的な意味の“会社員”は職業ではないので、仕事の中身を表す言葉を探すことになる。事務職なら無難に“OfficeWorker”で可だが、普通は“Secretary(秘書)”とか“Accountant(会計係)”などと、職務内容を示す言葉を使う。私も会社員ながら“Industrial ManagementConsultant(工業経営コンサルタント)”と書き込む。
こんなところからも、私たち日本人の職業観がうかがえる。つまり日本で言う「会社」とは、人生の中で自分が所属したい“運命共同体”なのだ。入社試験面接時の決まり文句は「なぜ当社を?」、であり「何のプロになりたいのですか?」と問われるのは稀だ。入社後もどの“職業”に就くかは、会社にお任せのケースがほとんど。雇う側も雇われる側も当人の能力分野や適性がわからず、手探り状態なのだから致し方ない。
なんだか、花嫁が「あなたの好きな色に染めてください」と白装束をまとうのに似ている。実際、会社側も入社前の学業の専門よりも、適応力のある“やる気”を頼りに、社風に合った形でリセットしながら役に立つ従業員に仕立てていく。だから“会社員”なのだ。時の運や人事のサジ加減で職種がうつろっても、与えられた仕事を謙虚にまっとうするという意味で、昔の人は“奉職”という言葉を使った。この言葉自体は粛然としていて嫌いではない。しかし、日本の職業観自体に対しては、欧州で揉まれた私としては反問したくなる。
今、日本で“手に職を持とう”という意欲のある若者は、高校や専門学校を出た一部の人間にしかいないだろう。職人は相変わらず足りないままだし、大学という最高学府にも、“職業意識”を醸成する環境があるとは言い難い。少子化で全入(高校卒業生全員が大学進学)一歩手前まで来ているというのに、このままではフリーター予備軍を押し出すだけだ。