連載 調査データファイル 第94回 職能・職責を重視した人事システムの必要性 産業特性と職務に則した 人事施策が技術革新を支える
バブル崩壊直後、多くの日本企業は個人別業績を重視した成果主義的な人事システムを導入し、終身雇用制度や年功賃金制度の見直しを進めた。
それから10 年が経過し、この人事システムは企業に苦い経験を残した。
その最大の原因は、自らの産業構造や仕事の特性を注視せず一様に成果主義を取り入れてしまったことにあるのではないだろうか。
経済成長が望まれる現在、成熟した日本産業界には技術革新が不可欠。
それに伴う産業構造や仕事内容の急変に人事労務部門は周到な人事システムを構築して挑むべきである。
1.国の経済成長を促すにはマクロ経済政策が必要
革命的とも言える政権交代が実現し、新政府による政策が次々と打ち出されている。国民生活重視の政策は歓迎されるものの、来年度予算の概算要求額が95兆円にも達することが明らかになると、そこはかとない将来不安に襲われる。日本経済は、すでに対GDP 比160%の公債残高を抱えており、国の借金は800兆円を超えてきている。貧困対策に力を入れざるを得ない社会状況に陥っており、社会のセイフティーネット(安全網)を充実させる必要性に迫られているのである。しかし増税等の負担増を回避している新政権には、やはり財源問題が付きまとう。
安易な赤字国債への依存は、財政の危機的構造をさらに悪化させることになる。新政権に欠落しているのは、やはりマクロ経済政策である。増税を回避して税収を増やすためには、マクロ経済の成長率を高めるしかないが、この点に関する政策が不明瞭である。
経済成長率を高めるには産業政策が不可欠である。現状は環境対応を見据えた技術革新が急速に進展し、自動車産業やエネルギー産業は、化石燃料から再生可能エネルギーへのウエイトを高めつつあり、技術開発競争が激化している。こうした産業構造の大転換を伴う技術開発競争には、国の政策的支援が不可欠である。
実は太陽光発電技術の産業化においては、以前は日本が世界をリードしていたが、短期間のうちにドイツなどの後続グループに追い抜かれてしまった。ドイツが手厚い電力買い上げ政策を実施したのに対して、日本では普及支援策を短期間で打ち切ってしまったことが影響している。日本の将来を考えた時、大きな成長が見込めるグリーン産業(環境産業)への国の支援は不可欠であり、その包括的な支援策の中には、当然のことながら人材育成策も含まれている。
2.技術革新と雇用システムの相関関係
技術革新には、突破型と積上型の2つのタイプがある。突破型の技術革新は、画期的な発明・発見が特定の企業や産業で起こり、その技術が急速に市場を支配していくもの。パソコンのOS やデリバティブといった金融商品が、その典型例である。米国はこの手の技術革新に滅法強く、マイクロソフトやグーグルといった市場独占的企業が君臨しているが、日本はこのタイプの技術革新が苦手で歯が立たない。
日本が得意としているのは積上型の技術革新である。積上型の技術革新は、新たな発明や技術開発が、多様な産業や多くの企業によって支えられながら発展し、裾野の広い産業構造を形成していくといった特徴を有している。自動車産業がその代表例である。
グリーン産業では、どちらかというと積上型の技術革新が進展しそうである。電気自動車の基幹部品となるリチウムイオン電池の開発には、多様な要素技術を有する化学産業の協力が不可欠である。また、太陽光パネルには、シリコン等の素材、ガラス、製造装置などの幅広い関連産業が必要だ。日本には、グリーン産業を支える素材、部品、製造装置の有力な企業が揃っている。欠落ないしは不足しているのは、グリーン産業を成長産業として育成していく国の産業政策である。