連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 現場で成長するための行動を 気づかせるのが人事の役割
キヤノンマーケティングジャパン人材育成グループ課長の澤田伸彦氏は、SE から人材育成グループに異例の異動をした人物。SE 時代、技術革新についていくために次から次に夢中で勉強したという澤田氏は、そうした経験から教育の重要性を痛感していると言う。そして、自身がそうであったように「人が伸びるのはあくまで現場」とも言い切る。先輩や顧客とかかわり、叱られながら伸びていくのだ。だが、だからこそ研修は気づきを与えると同時に、会社としての価値観を共有する場にしなくてはいけないとも語る。澤田氏に教育に対する想いを聞いた。
SEから人事部へ異例の異動
キヤノン販売がキヤノンマーケティングジャパンへ社名変更したのは、2006 年のこと。この社名変更には、単にキヤノンの複写機やプリンタといった製品を売るだけではなく、そうした製品とともに問題解決の手段やシステムといった、いわゆるIT ソリューションも一緒に提供している事業の実態を社名に反映するという目的があった。
ソリューション提供の強化に取り組むために同社が改めて人材育成に本腰を入れたのは、2000 年だった。まずは大手顧客の営業担当者およびシステムエンジニア(SE)のマネジャークラスから50 人を選び、問題解決の研修プログラムを受講させた。顧客に適切な提案ができる力を向上させるためである。
これに選ばれた1 人が澤田伸彦氏だ。この時、澤田氏はシステムエンジニア本部の課長として、部下を率いて仕事をこなすSE だった。
「SE の定義は広いのですが、当社のSE は、ただシステムを設計・構築するだけではありません。営業と一緒にチームを組んで顧客のニーズをヒアリングし、顧客が何に困っていてどういうシステムを構築すればいいのかを探るところから行います。そのためSEにもこの研修が必要だったのです」(澤田氏、以下同)
この研修は、「問題解決技法」「プロジェクトマネジメント」「プレゼンテーション&ミーティングマネジメント」「ソリューション営業のためのコンサルティングスタイルを習得するプログラム」を、半年間で受講・実践するというハードな内容だった。
澤田氏を含む研修を受講したメンバーたちは、それまでもソリューションサービスを顧客に提供していた。しかし、この研修で改めて具体的な手法を学んだことで、それまでの仕事を見直すことができ、今後どのように行動すべきか、多くの気づきを得たという。
この研修を受けた翌年の2001 年10月、澤田氏は、人事本部人材開発センターへ異動することになる。これには澤田氏も驚いたという。「SE が人事部へ異動になるなど、それまであまり例がなかったからです。それに、私はSE の仕事が大好きでしたから。なぜ自分が人事本部へ異動するのだろうと戸惑いました」と、澤田氏は当時を振り返る。上司に「人材開発センターで、私は何をすればいいのでしょうか」と聞いたとも笑う。だが、課長として10 人の部下を管理していた澤田氏は、教育の重要性について十分認識していた。
技術の進化に応じた教育の重要性を痛感
SE から人事本部へ異例の異動をした澤田氏だが、そもそも1981 年に就職した時は、SE になるとは思いもよらなかったという。実を言うと澤田氏は、営業の仕事を希望していたからだ。
「ビジネスの現場に憧れていたのです」
一方で、モノづくりも好きだった。一からモノをつくることに対する憧れがあったのだ。だから、出来上がったものを右から左へ動かす仕事より、自社でつくったモノを売る仕事がしたかった。そこでメーカーの営業の仕事を選んだのだが……。
「物理学専攻だったために、技術系で入社することになったのです。結局、SE として配属されました」
思いもよらない進路だったが、仕事はとても面白かったと言う。「SE にはシステムを設計・構築するというつくる喜びがある。さらに、つくったモノでお客さまに満足してもらえる。その両方を実感できる仕事に、とてもやりがいを感じました」
もちろん、最初は苦労の連続だった。