企業事例 日本紙通商 きっかけと場を与え 学びに対する 主体性を引き出す
商社の営業担当者は、自分で行動できる自立型人材でなければならない――
紙やパルプの専門商社である日本紙通商は、業界一のプロフェッショナル集団を目指すために、自ら学び考える人材を育てる、学ぶ風土の醸成に注力している。
社員に危機感を持たせ競争心を刺激する一方で、能力開発目標と通信教育を結びつけた制度や、社員同士がお互いに教え、学び合う風土づくりなどでボトムアップを図っている。そのベースには、個々人の学びを支援する、人事のゆるぎない姿勢がある。
商社事業の財産は自ら考え、学ぶ人材
日本紙通商は、紙・パルプの仕入れ・販売を手掛ける専門商社である。同社では約30 年前から通信教育を導入するなど、個人学習の推進を中心とした人材の育成に力を入れてきた。その理由を、人事部長の永瀬朗氏は次のように語る。
「商社というのは、モノを仕入れて売るという事業を中心としています。モノには原価があり、それは基本的にどんな商品でもそう変わりません。商社が他社と勝負するためには、いかに付加価値を付けるかが重要になってきます。
では、付加価値を付けるのは誰か。それは1 人ひとりの営業担当者――商社にとっての財産である“人材”です。そのため、1 人ひとりの社員に、自ら考える自立型人材になってもらうことが不可欠なのです」
自ら考える自立型のプロフェッショナル集団になるためには、まず社員自身が能動的に学ぶことが必要だ。与えられたことだけを学んでいるようでは、現代の変化のスピードにまったく追いつかない。自分から学ぶべきことを見つけて成長していく人材になって欲しい――こうした意図から、同社では人材育成を徹底し、そして「自ら学ぶ風土づくり」にも力を注いでいる。
日本紙通商の取り組みは、社員への意識づけ、コミュニケーションの活性化、自ら学ぶことを支援する仕組み、人事部の姿勢、という4 つの視点に整理することができる。順に見ていこう。
危機感を持たせ競争心を自然に刺激する
まず社員への意識づけについて、永瀬氏が重視していることは2 つある。社員に危機感を持たせること、そして、競争心を刺激することである。
危機感を持たせるためには、「今なぜ、学ばなくてはならないのか」を繰り返し言い続けると言う。
「たとえば、与信管理や債権管理の研修の前には『万が一、取引企業が倒産してしまったら何千万円、何億円という損失が出る。経営環境が厳しい現在、そういった損失を少しでも防ぐことが重要です。そのためには、現場の皆さんがしっかりとした知識と意識を持って日々お客様と接するしかない。だからこそ厳しい状況でも費用をかけてこの研修を行っています。しっかり学んでください』と話すのです」(永瀬氏、以下同)
こうしたメッセージを事あるごとに、人事部や担当役員などが発信する。経営の一貫した姿勢として社員たちに受けとめてもらいたいためである。
一方、社員の中に競争関係をつくり出すためには、階層別研修を重要な機会ととらえている。主任クラスまでは毎年1 回、それ以上の層でも2 年に1回は2 泊3 日の研修を実施する。
他の商社と同様、同社の営業担当者も単独で仕事をしており、普段ゆっくりと他の社員と話す機会が少ない。そうした中で行われる階層別研修は、同期が一堂に会する数少ない機会である。