企業事例 三工社 人事考課と連動させ 学びが報われる 風土をつくる
15 年前から継続して通信教育を取り入れてきたという三工社。
大島一男社長が専務取締役として同社に入社した平成16 年からは自らが命名した「無限教育」を人材教育のスローガンとし、外部機関の講座、通信教育、社内講習会の3 本柱で人材を育てている。
専門・専門外、若年・ベテランの壁を取り去り、全社員が教育対象。
この教育を職務目標管理制度と連動させ、社員の“やる気”を向上させている。
社員の顔つきを変える独自の学習システム
通信教育の延べ受講率は年間約140%。修了率は約70% ――。こうした社員の積極的な「自己学習」を、人事考課制度と風土づくりの両面から支援しているのが、鉄道、交通、ガスなどのインフラ事業を支えるものづくり企業である三工社だ。
鉄道信号保安装置を主力製品として、鉄道車両用部品、道路交通信号機、道路標識、ガス検知警報装置・計測装置などを製造する同社はここ数年、安定した成長を続けてきた。その源泉となるのが、独自の工夫に満ちた学習システムだ。同社代表取締役社長の大島一男氏は、その導入の経緯を次のように語る。
「私が専務取締役として三工社に入社したのは平成16 年でしたが、その頃の当社の印象はどことなく暗かった。元々工場だった本社社屋の雰囲気だけではありません。社員の表情そのものが暗いのです。会社の将来に、自分たちの未来に夢が持てないのではないか――そんな感想を抱きました。なんとかして彼らの表情を変えなければと取り組んだのが当社独自の人材教育『無限教育』です」(大島氏、以下同)
無限教育とは、教育には終わりがないことを表したもの。そのポイントは2 つある。第一に、職種を越えた学習である。自分の職種だけでなく、他の職種の学習もさせる。鉄道信号保安装置のエンジニアであれば、道路交通信号機やガス検知警報装置など専門外の技術も学び、より広範な知識を身につけたプロフェッショナルになってもらうのだ。
第二に、若手からベテランまで年代を問わず学習させる。近年の技術革新のスピードには目を見はるものがある。時代の変化に追いつくためには、若年層のみならず、熟練技術者もまた、新たな知識の獲得が常に必要となるからだ。
もちろん、ベテランの技術を後進に継承してゆく必要もある。OJT のみでは、個人差や世代間ギャップによって知識や技術にバラつきが出るので、しっかりした教育体系に基づく学習が不可欠になる。
現在、同社は信号機メーカーとしては上位に位置しているものの競合他社に追いつき、追い越すにはさらなる技術力の飛躍が求められる。また、信号機という製品の性格上、三工社では安全への貢献を社会使命としている。確実な製品をつくるためにも、知識面から品質管理の徹底・向上を目指さなければならない。だからこそ、社員の絶え間ない学びは不可欠だ。
若手も講師役となる「三工社塾」
三工社の人材教育カリキュラム(図表)の柱は大きく分けて3 つ。外部機関の各種講座、通信教育、そして社内講習会の「三工社塾」だ。
実はこの三工社塾こそ、社員の学習意欲を高め、社員同士の学び、教え合う風土を醸成するカギとなっている。いったいどんな塾なのか。
この講習会の最もユニークな点は、講師陣の顔ぶれだ。顧問である広島大学大学院や神奈川大学の教授などを招くこともあるというが、大抵は社員自らが教壇に立つ。役員や部課長クラスだけではなく、一般の社員、それも若手までが講師役を務めるのだ。
「以前から外部研修を行っていたのですが、学んだことをより深く、そして広く社内に定着させていくには、受けっ放しではダメ。そこで、研修を受けてきた社員を講師とし、社内で勉強会を開いては、と思ったのです。
それに他人に教えるとなれば、自分が理解するための3 倍は勉強しなければなりません。それは真剣になりますよ(笑)」