企業事例 ベネッセコーポレーション 期待する人材像を示し 主体的な自己成長を促す 新人事制度を構築
1995 年に打ち出したベネッセコーポレーションの人事制度のテーマは「自由と自己責任」。
変化の激しいビジネス環境の中では、個人が主体となって学び、キャリアを築いていかなければならないと考えた。しかし実情は、社員のキャリア観と会社の理想の間にズレが生じ、社員間のスキル格差が開く結果となってしまった。
そこで同社は2008 年、基礎能力開発は必須としながらも、後の成長は社員個々人の自主性に委ねる新人事制度を策定した。
自由と自己責任を旗印に新人事制度を導入
「一人ひとりの『よく生きる』を支援する」という企業理念を掲げるベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は、人々が主体的に人生を切り開いていくことを応援すべく、これまで「教育」「生活」「福祉」「語学」という4分野を中心にさまざまな事業を展開してきた。1995年に、福武書店から新社名として制定された「ベネッセ」も、ラテン語の“bene(よい)”と“esse(生きる)”に由来する造語で、同社の企業理念を体現している。
社名変更と同時にベネッセでは、社員にも主体的に行動し、会社に貢献してもらいたいとの願いを込めて人事制度を刷新した。当時、この新人事制度でかなり思い切った方針を打ち出したと、人財部人財開発課長の飯田佳子氏は振り返る。
「 テーマは『自由と自己責任』でした。基本的な考え方として、会社と社員は契約関係にあるわけで、もっと互いにWIN-WIN を目指そうということです。実力成果主義を導入し、社員へ成果を求めるとともに、会社は成果に見合ったリワードを約束しました。社員にも主体的に行動して欲しいという強いメッセージのもと、人事制度も主体性を重視したものに切り替えました」
たとえば、「スーパーフレックス制度」を導入して個人が最も能率が上がる勤務時間帯を選べるようにし、福利厚生でも「カフェテリアプラン」を取り入れ、自分のライフプランの中で必要なものをセレクトできるようにした。人材育成に関しても「能力開発ポイント制度」を導入。毎年100ポイント、金額にすると10万円程度の補助金を自己啓発のための研修やセミナーに活用できるようにした。従来の社員を手取り足取りサポートする方針から、個人の成長は個人のやる気と主体性に任せ、会社側はその選択肢を提供し、支援するという考え方に転換したのである。
しかし数年後、人財部では理想と現実が少しずつ乖離し始めたことに気づく。たとえば能力開発ポイント制度では、会社側の意図と社員の活用実態との間にズレが見られるようになった。会社側が社員全員に必要だと考え、全員に受けてもらいたいと期待していた基本的なスキル研修さえも、受講することなくそのまま昇進していく社員が出てきたのである。
必要・不必要に関係なく、自分の興味優先のセレクト、本業に時間を取られることによる受講時間の減少……。その一方で、時間と機会を最大限に活用して、積極的にスキルアップを果たす社員もいるなど、社員間の格差も出てきた。
「社員の主体性を重んじた新人事制度自体は間違っていなかったものの、やはり会社側のメッセージが正確に社員に伝わっていなかった。自己責任あっての自由であるはずが、自由という文言ばかりが先走ってしまったんですね。また、『自分で主体的に学んでください』と社員に任せる一方で、会社が最低限フォローする部分がもっと必要だったと考えています」(飯田氏、以下同)
これらの反省から人財部では、制度の問題が見つかり次第、マイナーチェンジを繰り返してきたが、2008 年の「2018年長期ビジョン」の策定を期に、抜本的な改定を行うことになった。