提言 学びの成功体験を 意識的に積ませることで 自発的な個人学習へつなげる
多くの企業が、教材学習支援などを中心とした「自己啓発支援制度」を設けている。
しかしその多くが、あまり利用されていないという。すべてを個人の自発性に任せた学びには限界があるというのが正直なところだろう。日々の業務に忙殺されている社員たちは、どうすれば自ら学んでくれるのか――それには“学びのきっかけ”を意識的に与えることがカギになる。
小さな成功体験の積み重ねが、次への学びへとつながっていくのである。
なぜ、個人が学ぶことが重要なのか。多様化が進んだ今日、企業が持続的に成長していくためには、社員1 人ひとりの強みや能力を最大限に引き出す必要がある。しかし、組織として、1 人ひとりの状況に応じて個別に学習メニューを設定するのは困難である。そこで必要になってくるのが、個人が率先して、自分の成長に必要なものは何かを考えて学び取っていくという“学びの自律”だ。
人材育成はOJT(On the Job Training)が基本であることは言うまでもない。だが、職場における人材育成力がここ数年急速に低下していると言われている。定期採用の減少や非正規社員の拡大による“職場での育成の連鎖”が途絶えたこと、また行き過ぎた成果主義による人材育成への関心の低下など、原因は多々考えられる。こうした中、個人が必要な技能や知識を学び、継続的に成長していくためには、実践や経験を通じて学ぶことが重要である。そしてそれを補完するのが、集合教育や個人学習といったOff-JT(Off theJob Training)なのである。
自己啓発支援制度の活用度向上がカギ
Off-JTのうち、特に“個人学習”( 自己学習・自己啓発)に焦点を当てれば、多くの企業が、個人学習教材の費用援助や社外セミナー参加などを促す「自己啓発支援」の仕組みを導入している。実際、厚生労働省の「平成20 年度能力開発基本調査」(図表1)によれば、社員に対してこうした自己啓発支援を実施している企業は79.2%。そのうちの40.6% が通信教育や社外セミナーなどについての情報提供を行い、さらに72.4% 強が受講料補助など、何らかの金銭援助を行っているという。
しかし、社員側から見た場合、その活用度が低いというのが多くの企業での課題である。同調査では何らかの個人学習を行った社員が58.1% いるにもかかわらず、会社から費用援助を受けた社員は29.8% 弱にとどまっているという結果が出ている。ここから読み取れることは、自己啓発支援という人材育成施策の意味や目的が、組織全体に十分に理解も活用もされていないということである。
実際、通信教育などの自己啓発支援制度を利用する社員がそもそも少ないという悩みを抱えている企業が多い。そこで個人学習を、個人の意思だけに任せておいて本当にいいのか、という問題が頭をもたげてくる。
この問題に対する編集部の答えは、「No」だ。人事・人材開発部門は、意識的に、社員が学ぶ意欲を持てるような仕掛けを用意すべきだと考える。
では、どういった仕掛けを用意すれば社員は自ら学ぶのか。これを考えるには「成人学習(Adult LearningProcess)」研究が参考になるだろう。大人である企業人の“学び”がどういったものか、どういった環境下で起こるものなのかについては、子供の学びとの比較によって把握することができる。大人の学びと子供のそれとの明確な違いの1 つは、そのかかわり方にある。子供の学びは受動的で、勉強そのものが仕事と言える。一方、大人の学びは自己決定的であり、学習内容を仕事や生活の場で活用することが求められる。しかも通常業務と並行しての学習となるため、圧倒的な時間的制約がある。つまり、社員が自ら学ぶ仕掛けをつくるには、個人の“ 主体性”と“やる気”に強く働きかける必要があるのだ。
たとえば、会社の自己啓発支援制度において、通信教育を受講する社員の多くがリピーターだと言われている。一度、支援制度を利用し、それによって何かしらの成果を実感できた人は、その効果を理解して“主体的に”学ぶようになりやすいのである。個人学習を促進するためには、最初の段階で意識的に学習させ、成功体験を積ませることが有効であると言えるだろう。またこれは、職場に“自ら学ぶ風土”を醸成する第一歩となる。
個人学習を妨げる3つのカベを打ち破るには
では、実際に自己啓発支援制度の活用度を上げて、個人学習を推進していくにはどうしたらいいのだろうか。編集部では次の「個人学習における3 つのカベ」を取り除けばよいと考える。