連載 HR Global Eyes 世界の人事 ニッポンの人事 Vol.7 “おやじ企業”に人徳リーダーシップを学べ
私事ながら、2010年は私がコンサルタントになって30年めに入る記念の年である。数えてみたら、これまで150社近い日米欧のクライアント先で、コンサルティングプロジェクトを実施する機会に恵まれてきた。幸か不幸か、名の知れた上場大企業であるケースがほとんどであったが、40 歳代後半辺りから、いくつかの中小企業とご縁ができた。どこも地方のファミリー企業である。
大企業の場合、相手先の特定の“機能”(たとえば研究開発部門や生産技術部門など)の枠内で仕事をすることが多かったが、中小企業での仕事の醍醐味は、会社全体を見渡しながらダイナミックで俊敏な仕掛けができる点にある。そのせいか、いったん信頼関係ができると長いお付き合いになることが多い。私が日本への本帰国を決めて、フランスの農業機械メーカー、SB 社にご挨拶に伺うと、社長のB 氏から「ムッシュ・タナダ、日本からも定期的に来てくれるね」と、私の手を両手で包みながら懇請された。この時は、不覚にも涙が出た。
世界中、ニュースはもっぱら大企業がらみばかりだが、雇用という側面で見ると、中小企業の貢献率もかなり高い。ヨーロッパでは、イタリアやドイツでその傾向が顕著で、フランスでも中小企業の基盤なくして国の活力は語れない。規模は小さくてもユニークな同族企業が多いが、悩みはどこも“後継者”問題である。
同族企業の悩み──後継者問題と人材不足
最近のフランスの統計では、同族企業のうち、次世代にバトンタッチできたのは2 割に過ぎない。時代の流れか“3 代め”の去就が話題になる。戦後、創業者が苦労して立ち上げ、その背中を見て育った2 代めが事業拡大し、引き継ぐに当たって、3 代めを外の関連大企業やビジネススクールに修業に出すケースが多い。しかし、別の世界に触れさせたのがあだで他の企業に就職したり、家業を継がずに会社を売って、得た資金で別種の会社を起業したりする3 代めも多いらしい。