連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第 32 回 映画『沈まぬ太陽』に 組織を変える原動力を見た
個人の信念と組織の論理
組織改革に必要なのは?
スクリーンいっぱいに広がる雄大なサバンナを、燃えるような夕陽がオレンジ色に染めていく。「ふぅーっ」。映画館のあちこちからため息がもれ、やがてエンドロールが流れると、驚いたことに拍手が湧き上がった……。
某航空会社の再建問題が連日メディアに取り上げられる中で話題となった映画『沈まぬ太陽』。山崎豊子の大ベストセラー小説の映画化である。原作は10年前に発刊されたが、経済状況の悪化で、組織と個人のエンゲージメント(絆)が改めて問われる昨今、何より貴重なケーススタディーとして、じっくりと味わった。
映画は、ジャンボ機の墜落シーンで幕を開ける。520名以上が犠牲となった航空機事故の凄惨な現場、棺が並び心も凍る体育館の風景、悲しみで半狂乱の遺族。「なぜこんなことに?」という切ない想いに応えるように、映画は23年前に遡り、原因解明の物語を始める。
渡辺謙演じる主人公・恩地元はナショナルフラッグ(国を代表する企業)、国民航空のエリート社員。労働組合の委員長として「絶対安全・安心」な運航を実現するため、過酷な職場環境の改善を訴え、ストライキも辞さない強気な態度で経営側と対峙する。組合員の信望も厚く、裏表のない、正義感あふれる熱血漢だ。
同じ国民航空のエリート社員、三浦友和演じる行天四郎も、労働組合副委員長として恩地とともに闘う。しかし行天は、仲間を裏切ってでも出世と企業利益を第一に行動する、計算高い、冷徹な男である。