調査レポート 「 2009年度(第31回)当面する企業経営課題に関する調査」から 過去に克ち、未来を創る経営 ──人と組織を通じたイノベーション──
日本能率協会(JMA)では、産業界における企業の戦略立案や経営課題解決に役立つ情報を提供するために、1979年より毎年、日本企業の経営課題に関する調査を行っている。
2009年度も全国の4000社を対象として、706社からの有効回答を得た。
「世界同時不況」を乗り越えた先の持続的成長に向けて、いかに未来志向の組織をつくっていくか──人と組織の側面からイノベーションのあり方を分析した。
「人材強化」重視の姿勢は中長期的には変わらず
今回の調査は、2009年8 月から9 月にかけて実施した。リーマン・ショックと世界同時不況が起こる中で、経営者の課題認識がどのように変化をしたのかということから見ていきたい。
まず調査では、経営課題として例示した20項目から、「現在」ならびに「将来」の重要課題として3 つを選択してもらった。図表1 は、「現在」の経営課題について、上位項目の5 年間の推移を表したグラフだ。ここから2008年から2009年にかけて、「売り上げ・シェア拡大」と「ローコスト経営」が増加していることが読み取れる。世界的な景気後退と低価格化競争の中で、売り上げ維持、コストダウンが最優先課題となっていることが表れている。
一方で、それまで重視度が高まっていた「人材強化」の比率が下がり、3位に後退している他、「品質向上」もランクを下げている。
もっとも、「将来」に対する課題認識について尋ねると、「人材強化」は2 位(40.1%)となっている。この比率は昨年と同水準であり、経営者が基本的には「人材強化」を経営課題として重視している姿勢が見られる。とは言え、当面は厳しい経営環境であることには変わりなく、地道な人材開発の継続が望まれる。
課題は管理職のマネジメント能力向上
以上は経営全般に対する課題であるが、この調査では領域別の課題についても質問している。
人事・教育領域における課題として、前回と大きく変化した点は、「事業展開に応じた機動的人材配置」(37.8%)が前回より11.6 ポイント増加して2位となったことである。業績が悪化し、不採算部門から撤退する一方で、将来の業績回復に向けて強みの分野をより強化していくという事業の再構築の中で、人材配置のあり方も見直されているということであろう。
また、人事・教育領域のトップには「管理職層のマネジメント能力向上」(61.9%)が挙がっている。前回(54.8%)よりもさらに重視度が高まるという結果であった。「売り上げ・シェア拡大」をはじめとするさまざまな経営課題に対処していくのも、ひとえに人である。その意味でも、現場を率いて組織目標の達成を推進する管理職層のマネジメント能力の向上が、一層重要視されているということであろう。