個々の社員の顧客に対する気持ちを大切に ホスピタリティを育むマネジメント
ホスピタリティや顧客意識が、今やどの業態の企業においても重要であることは事実だ。しかし、企業がそれを真に実践する集団となることは簡単ではない。そこで、運営する東京ディズニーリゾートのホスピタリティが幅広く顧客に支持されているオリエンタルランドに、ホスピタリティ醸成のカギを聞いた。
ハピネスの提供というホスピタリティ
私は、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーで直接ゲスト(お客様)と接するキャスト(パーク内従業員)の教育を担当している。おかげさまで毎年多くのゲストが来園してくださり、そのうちの90%以上がリピーターである。私たちのミッションは、そうしたゲストに“ハピネス(幸福感)”を提供することである。
たとえば弊社では、定期的にパーク内に新しいアトラクションをオープンさせているが、これによりゲストにワクワク感を持ってもらうことができる。また、パーク内をきれいに清掃することも、ゲストに気持ちよく過ごしてもらうために重要である。このように、私たちが行うすべての行動は、ゲストへのハピネスの提供に集約される。
弊社のキャストは、ゲストにハピネスを感じてもらうため、積極的にコミュニケーションをとる。この時、欠かすことができないのが、彼・彼女らが自ら発揮する「ホスピタリティ」(おもてなし)の精神である。
ベースとなるのは哲学と行動規範
実は弊社には、ホスピタリティに関するマニュアルは存在しない。各アトラクションやショップには「オペレーションガイド」と呼ばれる、機械の操作方法などを記載したマニュアルはあるが、お客様のおもてなしの仕方について書かれたものはない。顧客対応は基本的に、キャスト1 人ひとりの判断に任されているのである。
しかし、まったく拠り所がないわけではない。その拠り所とは「ディズニー・フィロソフィー」。これは、ディズニーの創業者ウォルト・ディズニーの考え方のことである。ウォルトはゲストへのおもてなしやエンターテインメントに対する考え方について、いくつかの特徴的な言葉を残している。ゲスト1 人ひとりを丁寧におもてなしすることの大切さを述べた「すべてのゲストがVIP」や、小さいお子様からお年寄りまで、家族全員に最大限の配慮をして楽しんでもらうべきだという「ファミリー・エンターテインメント」といった言葉がそれだ。
このようなウォルトの考え方は、日常のオペレーションやトレーニングの中で受け継がれ、大切にされている。日々、おもてなしを現場で実践する中で、上司や先輩などが語るウォルトの言葉の重要性を実感していく。そして自然と、キャストの心に浸透していき、おもてなしの拠り所となるのである。
自分で考えて発揮するホスピタリティ
ディズニー・フィロソフィーの中で最もキャストに身近なものは、「SCSE」と呼ばれる行動基準である。SCSE とは、Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Effi ciency(効率)の頭文字を取ったもの。キャストが入社して最初に受ける導入研修で教えられるもので、雇用形態や、どこの関連会社所属であるかも関係なく、東京ディズニーリゾートで勤務するキャストなら全員が教わる。もちろん、オンステージ(直接ゲストと接する場所)で約6 年間、バックステージ(本社など、パークのサポート部門)で約5 年間勤務している私にとっても、SCSE が常に自分の行動規範となっている。