教育部門も投資対効果を示すべき 教育もビジネスライクに
「教育効果は測れない」と語られる中、日本ベーリンガーインゲルハイムの早川勝夫氏は、目標と測定指標をしっかりと設定することによってそれは可能であると語る。そして、教育部門も他の部門と同じように、投資対効果を経営に対し明示することが重要であると説く。その考え方と方法を聞いた。
投資対効果の明示が教育部門の存在価値を証明
「教育効果など測れない」と、はなからあきらめている教育担当者が多いと聞く。しかし、そんなことはない。目標や測定指標をきちんと置くことによって、測ることができるのである。
経営環境が厳しい近年、コスト管理はもはや当たり前になっている。いかにムダを省いて利益を上げるかが、激しい競争を勝ち抜くカギになっているからだ。しかし、企業内教育に目を向けてみると、大きな予算(投資)を使っているにもかかわらず、その効果が明確に示せていない。特にコスト削減の圧力が強い今日においては、教育部門も何かしらの“成果”を示さなければならないのではないだろうか。さもなければ、自身の存在価値を経営サイドに示すことすらできない。そのためにも、教育の投資対効果(ROI)を測ることは避けて通れないと考えている。
何を隠そう、弊社でも私が異動してきた2003年以前までは、教育の投資対効果は測られていなかった。しかし、営業部門から異動してきた私は、そのことに違和感を覚えた。と言うのも、営業では通常、めざす“ゴール”が明確に決まっている。ゴールに到達する、つまり成果を出すために立ちはだかる課題は何かを考え、その解決策を考え、実行していく。こうしたプロセスを経て結果が出る。ビジネスとは基本的にこういうものだと思っていたからだ。
しかし、教育の世界の仕事はまるで様子が違った。めざすべきゴールが定まっていないのである。これをおかしいと思ったのが、私が教育の投資対効果を測ろうと考えたきっかけである。
教育部門が、自社の中で明確な存在価値を示すためには、いろいろなアプローチがあると思う。医薬品の製造・販売を手がける弊社の能力開発部でフォーカスしているのは、MR(医薬営業担当者)1 人ひとりに変革を促し、知識やスキルを身につけてもらうことによって生産性を向上させていくことである。よって我々のゴールはすなわち、「MR の生産性を上げていく」こと。そのためにはMR の行動変容につながるプログラムを作成し、数カ月かけて実施していく。そして最終的に、どのくらい行動が改善され、売り上げに対して教育の効果がどれだけあったかを算出する。投資した金額がいくらで、それに対しリターンがどれだけの割合かを計算していくのである。これを証明することにより、教育部門は経営に対して貢献できることになる。
何をゴールとするかを経営と合意する
教育の投資対効果を測ることができたら、これは非常にすごいことだ。「教育が投資である」ことが証明されるのだから。しかし業績が悪くなると、何よりも最初に教育費用が削られがちだ。だが、何のために教育はあるのか。そこには、会社としてあるべき姿、めざす姿と、うまくいっていない現状とのギャップがある。このギャップを埋めるためにあるのが教育だろう。
経営者は当然、教育に投資する限り何かが得られると思っているし、それなら、その費用対効果を証明しろというのも当たり前の話だ。とは言っても、すでに終わってしまった研修の効果を測ることはできない。まず何をゴールにするかを具体的に決め、それに対する投資額はいくらまでなら許容されるかを、あらかじめ経営とディスカッションして“握る”必要がある。そうして目標(ゴール)を明確にして合意しておけば、結果報告が容易になるばかりか、教育部門の成果も明確になる。