グローバル経営のカギとなる 経営の現地化
急速なグローバル化から企業の海外進出が相次ぐ。海外事業所の多くは日本からの出向社員の管理で成り立ってきたが、近年は出向者不足や現地社員の日本企業離れなど課題が表面化している。早くから海外に進出したYKKは現地人を経営幹部に積極登用。今日ファスナーの世界シェアの約半分を占める。
土地っ子になってともに繁栄をめざす
YKK は1934年にファスナーの加工・販売で創業した。海外に進出したのは1959年で、日本企業の中では比較的早くから海外に進出した企業と自負している。しかし、創業当時からグローバル化を意識していたわけではない。そこには、「自分たちのビジネスを海外でも成功させたい」という想いと、創業者・吉田忠雄の企業哲学があった。それは「善の巡環」という言葉に集約されて今日まで受け継がれている「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という思想だ。自己の利益のみを追うのではなく、利益を分かち合うことでお客様や地域社会にも貢献し、お互いに繁栄していこうというわけだ。
これは国内だけでなく、世界に出ても同じ。現地で稼いだお金は日本に持って帰るのではなく、その国で再投資する。その国のお客さんや社会に貢献しながらYKK も発展していけばいい。
さらに創業者は、海外進出する際に「土地っ子になれ!」と言い続けてきた。東京本社の顔色をうかがわずに、現地の環境や状況に合わせて最善を尽くせということだ。
かく言う私も「土地っ子になれ!」と言われて海外に飛び出した口だ。入社2 年めにしてアメリカに赴任し、東海岸に5 年、ロサンゼルスに5 年、ダラスに5 年、アトランタに7 年、アメリカ生活は22年余に及んだ。さらにその後、香港、上海と、気づけば海外暮らしは32年を数える。ここまで長くなったのは予想外だった。10年、20年といった長期滞在組が多数顔を揃えるYKK においても、どうやら最長クラスらしい。もちろんこれは強制ではなく、自らが望んでの結果である。
このようにしてYKK は、海外においても地域に溶け込んだ事業を展開してきた。いわゆる“経営の現地化”である。これがグローバル展開を円滑に進められた最大の要因でもあり、YKK グループは現在、世界70の国と地域で117 社(国内23、海外94)、568拠点にまで成長するに至っている。
「信じて任せる」が経営現地化につながる
経営の現地化には大きく分けて3 つのパターンがある。
1 つは、日本からの出向社員による経営現地化。往時のYKK が海外進出する際にとってきた手法だ。2 つめは、実績のある優秀な人材を外部調達する方法。そして3 つめが、現地で生え抜きを選抜・登用する方法である。現地の人にYKK の経営哲学を理解・実践してもらうのに時間はかかるが、現地のことは現地の人間が一番詳しい。将来的に最も適切だと思われるのがこの方法だ。YKK ではすでに、2005年から現地人材の幹部登用を積極的に進めており、その対出向社員比率を50%にすることを目標に掲げている。