問題解決力は対話の中で生まれる 教え、育つのを待つ
自発的に問題に気づき解決していく人材──こうした人材が多いほど組織は強くなる。だが実際は、日々の業務をこなすことで手一杯だ。問題解決力のある人材を育成するカギは、気づきを促す適切な質問を繰り返すこと。この対話を通じて、何が起こっているのかを把握する力が身につくのだ。
改革は日々行ってこそ成果が出る
世の中が不景気になったために、「今こそ改革を!」と言う人が増えた。しかし、それは間違いであろう。状況が悪くなって初めて改善・改革をするのではなく、改善・改革は常日頃から取り組んでいなくてはならない(図表)。たとえばムダな固定費削減なんて、不景気でなくても当たり前のことだ。
1990年代、日本メーカーはコスト削減のため、生産拠点をどんどん中国に移した時期があった。そして代わりに国内工場をたくさん閉鎖していった。それに合わせて重要な技術もどんどん流出してしまった。しかしこの時リコーは、国内工場を一切閉鎖しなかった。なぜそれが可能だったのか。重要部品の開発を国内に残すことで、ノウハウの漏洩防止と雇用の維持を両立しようと、1980年代から一生懸命取り組んでいたからだ。
その結果、1990年代に国内工場を一切閉鎖することなく雇用を維持することができ、また、さらにその時開発した部品がその後のビジネスの種になった。もし1990年代になっていきなり開発を内製化しようとしたら、うまくいかなかっただろう。
改革を進めるべきだという一方で、改革が進まないという話をよく聞く。それに対して「改革に対する意識が低い」「問題意識が低い」といった声を耳にするが、これも間違った認識だ。改革が進まないのは意識の問題ではない。改善や改革をしなくていいと思っている人はほとんどいないからだ。ただ、問題を解決して改革を進める具体的な方法や考え方がわかっていないから改革できないのである。
たとえば「このような問題があるから、問題解決をぜひやってみたいという人は手を挙げてくれ」と言っても、多くの人は自分の仕事で手一杯なのが現状だろう。もしその時、普段からその問題に着目し「こうしたらいいんじゃないか。こうしたら良くなるはずだ」と具体的な解決方法まで考えている人がいたら、「ぜひやりたい」と手を挙げるはずだ。それが自分の仕事にかかわる問題ならなおさらである。つまり、直面した問題をどうやって解決するのか、日頃から少しずつ山を崩していくように取り組んでいることが大切なのである。そうした考えもノウハウもない人に、いくら「意識を高めましょう」といっても無理である。
多くの場合、どのように考えればよいのかわからないので、できるだけ問題を避けようとする。仮に担当することになっても、できなかった場合の言いわけを考え始める。目先の問題を解くことから逃げてきた人は、考え方を教えない限り、その問題がいかに難しいかを証明することばかり考えていつまでたっても問題を直視できないだろう。
そこで何が起きているのかをしっかり押さえる
問題を解決するためには、まず、そこで何が起きているのかを理解することが必要だ。物事は全体的に漠然と見ていても、理解することはできない。問題を分解し、必要な要素を網羅して理解できれば、問題解決の半分は達成できたようなもの。何が起きているのかもわからないのに、問題を解決することはできないのである。
このように言うと、誰もが「当たり前だ」と思うだろう。しかしこのことを本当にわかっている人は少ないと断言できる。多くの人が、何が起きているかを理解するより先に、なぜかと理由を考え始めるからだ。そこで私は、それを戒めるために「TTY」という標語をつくった。これは「whaTThen whY(“何が”のあとに“なぜ”が来る)」ということを表している。
たとえば、「売り上げが下がってしまったことが問題なんです」という人がいたとする。しかし「売り上げが下がった」と問題をただ漠然と眺めているだけでは、何もわからない。その場合私は、「あなたは問題だと言うけれど、何について売り上げが下がったと言っているの?