変革を起こせるかどうかがM&A成功のカギ Post Merger Innovation ──統合後の変革を創出──
不況期はM&A が加速する。今回の不況期においても、業界再編の波が広がっている。その目的は体質強化や相乗効果などによる業績改善・成長だが、過去の事例では必ずしも結果に結びついていない。その原因の多くは、人事・組織の統合マネジメントの失敗だという。人事・人材開発担当者は何をすべきなのか。
単なる統合から変革を目指す時代へ
現在、M&A(企業の合併と買収)は世界中のビジネスの現場で活発に展開されており、そのマーケットも近年急速に拡大を続けている。日本国内においても同様で、かつては一部の企業にしか関係のない言葉であったM&Aが、今では日本の企業社会に深く根を下ろし、戦略的経営の1 つの手段として行われるようになった。どのような企業のビジネスパーソンにとっても、M&A は決して他人事ではない時代になったのである。
しかし、私の実感として、また多くの案件を手掛けてきた弊社の社員の話からも、M&A が成功したと言える事例は思いのほか少ない。M&A を決めた段階で想定された統合後のシナジー効果を、実際にきっちり発揮できている企業のほうが少ないのである。近年は成功事例と言えるものも年々増加傾向にはあるが、それでも全体の3 ~ 4割というのが現状である。
M&A の失敗例で顕著に見られるのが、買収しただけ、同じグループ会社になっただけで、社内に新しい仕組みやオペレーションが部分的にしか生み出されなかった場合である。この時、当事者はお互い、統合相手の社内の仕組みがよくわからないこともあり、「新会社の戦略は統合した後で考えればいい」とタカをくくっていることが多い。しかし、このスピード感だと、統合して半年~ 1 年経っても手がつけられず、看板以外は統合前と何も変わらないということになりかねない。結局シナジー効果をまったく発揮できない“名ばかりM&A”となるのである。
実際M&A を成功させるためには、株主や社員など多くのステークホルダーを巻き込みながら、長期間、複雑な作業が伴う。中でも、人事・組織に関する諸問題の扱いはハンドリングが難しく、「なかなか思うように進められなかった」という声がいろいろな調査結果でも報告されている。逆に言えば、この人事・組織の統合マネジメントをしっかりと押さえることがM&A成功への近道なのである。
また、中長期的にM&A のシナジー効果を発揮していくためには、新会社において、組織および人材の力を遺憾なく発揮させるための環境づくりが不可欠。これを効率的に行うことを見据えたPMI(Post Merger Integration)を推進していく必要がある。統合後のシナジー効果の発揮を念頭に置き、統合前にあらかじめ統合プロセスを明確化し、それに沿って統合を進めていくというものである。
ところが近年、人によってはPMIのとらえ方が変わってきた。これまでM&A と言えば、別々の会社を統合(Integration)することにばかりフォーカスされてきた。しかし、“統合日”という物理的な期日までに、人事・組織の統合にまで目配りし、行動している意識の高い人にとっては、統合後に、いかに新会社として変革(Innovation)を起こせるかが最大の関心事なのである。「 Post Merger Integration」から「PostMerger Innovation」への概念転換──。これからM&A を考える場合、これが1 つのキーワードになるのではないだろうか。
ビジョンの早期構築と社内アナウンスの重要性
M&A を進めていくうえで最も大事なポイントは、新会社のビジョンを早期に構築することである。このビジョンこそが、新会社をつくっていくうえでの明確な指針となるからだ。
弊社へ持ち込まれるM&A 案件は、約半数がマスコミ発表前の段階である。 そんな時、我々がお客様のプロジェクトチームに加わって最初に話すことは、「統合後、新会社の理想の姿を想像してください」ということ。特に、まったく業種が異なる企業同士が統合する場合などは、相手のことよりも、まず自分たちの理屈の中で、「自社をどうしたいか」ばかりに意識が向きがちである。いわゆる“同床異夢”状態とでも言えようか。