個の多様化に即したキャリア細分化 マスの管理から個の支援へ
組織構造がピラミッド型からプロジェクト型に移行し、社員全員が管理職をめざすというキャリアモデルは崩壊した。個々人の価値観はさらに多様化し、育児などの私事情が仕事に影響を及ぼすことも珍しくなくなった。これからのキャリアパターンは、社員の数だけ存在すると言っても過言ではない。
十人十色のキャリアパターン
キャリア開発は今、制度によるマスの管理から個の支援へという過渡期にある。マスの管理の典型的なものは、資格等級制度による画一的なキャリアパスの明示である。専門職を追加して複線化する例もあるが、1 つが2 つになったに過ぎず、現実にそぐわない部分が出てきている。
特に問題が噴出しているのが、現地採用で転勤のない地域限定職を、本社から派遣された総合職と切り分けるといった、区分で管理する例だ。たとえば、成績不振の地方の事業所を閉鎖する時に、地域限定職だけを解雇するのは難しい。他の事業所への単身赴任を本人が希望した場合でも、総合職なら手当がつくが、地域限定職にはつかない。それが差別に当たるとして会社が訴えられた例もある。また総合職であっても、親の介護のために転勤できないといったケースにはいかに対応するのか。転勤を拒否した場合、地域限定職に比べて優遇されていた分の給与を過去に遡って返金させるのか。そうしないとしたら、転勤命令を拒否する総合職が増えてくるのではないか……。
制度の弾力的な運用で済む場合もある。しかし極論すれば、千人いれば千通りの個の支援が求められるようになってきたということである。
現場に合わなくなった画一的なキャリア
その理由は大きく分けると2 つある。第1 に、 会社がワンパターンのキャリアを提示しても、現実の組織モデルと合わなくなってきたこと。かつては総合職全員が将来、管理職になるというモデルであった。しかし今日においては、フラット化をはじめとする組織改革や、経済の停滞を背景にした事業の統廃合などが進展し、ポスト不足が著しい。1970年代のオイルショックの際もポスト不足が問題になったが、当時の対応として広がったのは職能資格制度だった。職制と資格の分離により、ポストに就けない人を救済したのだ。
現在では、そうした処遇上の問題にとどまらず、ビジネスの現場の要請として、社員のプロフェッショナル化が重要な問題として浮上している。たとえば、ソリューション業務においては、管理職を頂点とするピラミッド型組織ではなく、プロフェッショナルが力を合わせるプロジェクト型の組織にならざるを得ない。もちろん、何らかのリーダーシップは求められるが、全員が管理職をめざすこと自体が、非現実的になってきたと言えよう。
第2 に、今の若い人たちの意識や価値観が変化したことが挙げられる。若者の大半が管理職になりたがらないのである。将来の管理職のポストがモチベーションにつながらなくなってきたわけだ。世代によって価値観が異なるうえに、男女差も大きい。人の数だけキャリアパターンが必要になってきたと考えたほうがいいだろう。
特に女性の場合、かつては出産後に育児休職をとることでキャリア形成が遅れるというイメージがあった。ところが最近では、短時間勤務制度などの育児休職以外の選択肢も出てきたし、たとえ長い休職期間をとっても、育児に専念した経験が優れたリーダーシップの発揮につながるなど、仕事上に有用であることがわかってきた。遅いか早いかではなく、違うかたちで人間力の形成がなされているという言い方もできる。一方で、独身のまま人生を送る人も増えているが、独身の女性で母親の介護をしている人も多い。
その他にも、離婚の問題や子どもの不登校といった家庭の問題も増えている。これらはそもそも、父親が人生を会社に捧げてしまって家庭をないがしろにしてきたから起きた問題ではなかったか。ワークとライフの重なりの部分の問題が、現在はいろいろな意味で噴出してきている。