連載 調査データファイル 第96回 日本の衰退が現実味を帯びてきた今、企業は何をすべきか 企業体質強化のカギは 従業員への利益還元
日本の相対的貧困率が15.7% という驚くべき数字が明らかになった。
一億総中流時代が過去のものであることは承知していても日本の衰退が現実味を帯びてきた証とも言うべき結果であろう。
バブル崩壊後の失われた10 年を経て、日本企業は不況の底から脱出し、持続的成長へとパラダイムをシフトさせたのではなかったのか。
しかし現実には、大企業の保守的過ぎる行動が目立ち、それが結果として、日本経済を負のスパイラルに陥れている。
この問題を解決するカギは、社員への利益還元と人材育成にある。
1.人件費圧縮が招いた貧困率15.7%という現実
マクロ経済では、しばしば「合成の誤謬」といった状況に陥ることがある。ミクロ的には正しくても、それが合わされば、マクロ的に不都合が生じる場合があるということだ。低迷が続く最近の日本経済は、どうやらこの病にかかっているようである。個別企業の合理的と思われる経営行動が合成されて経済全体に波及すると、予想に反して経済成長の足を引っ張る結果をもたらしている。
最近の経営行動は、人件費を圧縮するために正社員の増加を抑制しつつ、派遣労働者等の非正社員を大量配置し、賃金の上昇を極力抑えてきた。こうした企業行動が回りまわって、社会全体では、ワーキングプアといった貧困層を大量に生み出してしまった。一生懸命働いているのにまともな収入を得られないワーキングプアの大量出現は、貧富の格差が小さく、中流意識を持つ中間層が大きな比重を占める豊かな社会を築いてきた日本社会にとっては、想定外の事態である。
民主党政権の長妻厚生労働大臣は、市場原理重視・規制緩和の政策を実施した小泉政権下で進行した貧困問題を明確にするために、日本の貧困率を調査させた。その結果、2007年の日本の貧困率は15.7%という驚くべき数字だった。内容を正確に把握していない評論家が、「日本の貧困は、生きていくために必要な食べ物もない国や地域のそれとは異なり、本当に貧困なのか疑わしい」といった趣旨の発言をしていたが、公表された貧困率は、「絶対的貧困率」ではなく「相対的貧困率」である。
相対的貧困率の計算方法は、簡単に説明すると以下の通りである。厚生労働省「国民生活基礎調査」から可処分所得を世帯人数で割って高い順に並べていった時に、全体の真ん中に位置する所得(所得中央値:228 万円)の50%以下の者を貧困者と定義し、その割合を相対的貧困率としている。
貧困者とそうでない者の境界線を貧困線と呼ぶが、貧困線を下回る者の割合が15.7%であった。時系列の変化を見ると、1998年に対して2007年は、1.1ポイント上昇している(図表1)。また、17歳以下の子供の貧困率も、同じような傾向を示している。