TOPIC ワークプレイスラーニング2009レポート 企業内教育をリードするのは誰か 個人と組織の快適な関係を探る
2009年10月30日、「ワークプレイスラーニング2009」が東京大学本郷キャンパスの安田講堂で開催された(主催:東京大学 大学総合教育研究センター)。
多くの各種団体・企業が協力した産学協同のイベントである。
同カンファレンスは2007年に第1 回を開催して以来、人材開発分野に意欲的な提言・問題提起を行う場として注目されている。
3 回めとなる今年は「成長をいざなう個と組織の関係」をテーマに開催された。
ワークプレイスラーニングとは
2007年から毎年1 回開催され、今年で3 回めとなる「ワークプレイスラーニング」。当日は朝からさまざまな業種の人たちが約1000名集まり、安田講堂内には熱気が立ち込めていた。
本企画委員会の主査であり、司会を務める東京大学准教授 中原淳氏はまず、この大会の根底にある問題意識と、これまでの3 年間で取り扱ってきたテーマの説明を行った。
問題意識とは、企業内教育が研修(Learning)と現場(Work)に分断されている状況を変えるべきということ。研修と連動した現場のあり方を考えるということだ。
その解決の糸口になるのが、本カンファレンスの名称でもある「ワークプレイスラーニング」という考え方。これは「仕事の現場でのさまざまな学び」を指す。これまで「現場の学び」とは「上司と部下の間で行われるOJT」と限定的に考えられがちであったが、人はこのような1 対1 の「教える─教わる関係」の中だけで成長するのではない。さまざまな経験、多様な人々とのかかわりの中で学び、成長するのだ。そこで、現場の学びを広くとらえ直し、学びと仕事の分断を乗り越える「Learningful Work( 学習的仕事経験)」を生み出すことを、中原氏は提案している。
このLearningful Work を生み出すためにはどうしたらいいのかを探るため、本カンファレンスでは、2007年は「ミドルの学びを支援する」ことを、2008年は「『人材教育』の新たな役割を探る」ことをテーマにしてきた。そして2009年のテーマは「成長をいざなう個と組織の関係」である。
企業内の学びは誰がリードするべきか
趣旨説明を引き継ぎ、産業能率大学教授の長岡健氏が問題提起を行った。現場の学びを考えるうえで見落としてはならないのは、「学びの主役は個人である」ということ。つまり現場での学びを成立させるためには、自ら進んで学び、物事を吸収しようという主体性を持った個人の存在が欠かせない。このことから、「どうしたら個人の主体性を引き出せるのか」が、育成を設計する側の重要な課題となる。この点について長岡氏は「社員1 人ひとりが学習の方向性と内容を自らデザインすることが重要だ」と言う。
しかしそこで疑問が生じる。個人が望む学びの方向性は、企業が望むものと一致するのだろうか。企業の側から見れば、企業の方向性と異なる個人の希望をどの程度受け入れるべきかが、問題となる。ここに、学習デザインに個人の積極的な関与を求めることと、組織の利益を実現することの間に齟齬をきたす危険性がある。
この問題をいかに乗り越えるか。長岡氏は1 つの可能性として「経験とつながりのデザイン」という視点を提示した。社員の成長を促すために、人事教育部門は個人が主体的に学習・成長していけるような経験を得る機会を提供する。同時に、人的つながりもデザインしフォローすることで、個人と組織の望ましい関係を構築するのである。
そして、長岡氏によれば、「個人と組織の関係」について、企業がとりうる方向性は次の3 つ。すなわち、①個人の主体的な学びよりも組織主導の人材育成を追求する、②組織の競争優位性に合致する方向を個人自らが選ぶよう仕向ける、③主体的に学ぶ個人の存在を受け入れ、組織と個人がwin-win の関係を構築することをめざす、である。