企業事例 三井住友銀行 若手に雰囲気づくりの重要性を伝える 笑いのワークショップ
三井住友銀行では昨今の若手人材の気質が変化してきたことに気づき、若い世代には従来とはまた別のコミュニケーション能力向上施策の必要性を感じてきた。
そこで、さまざまな施策を展開する中で特に評判が良かったのが「笑いのワークショップ」である。初対面同士で漫才を作っていく過程で、コミュニケーションについて気づきを得ていくこの研修は、若手人材に、場の雰囲気をつくることの重要性を意識させてくれるという。
Face To Faceのコミュニケーションが苦手
2009 年9 月、三井住友銀行はユニークな研修を実施した。大手芸能プロダクションが提供する 「笑いのワークショップ」だ。漫才研修とも言えるこの研修の狙いは、若手行員のコミュニケーション能力を鍛えるというもの。もっとも、この研修はあくまで他の多くの施策の中の1 つとして実施したものだと、人事部キャリア開発グループ長の林孝敏氏は話す。
「社員のコミュニケーション能力の向上という目的に対して、我々はこれまでもロジカルシンキングやコーチング、チームビルディングやファシリテーションといったさまざまな取り組みを行ってきました。もちろん今後も、こうした取り組みは続けていきます。ただ、特に若手社員に対しては、従来通りのやり方だけでは不十分なのではないかという問題意識がありました」
入社して間もない若い社員のコミュニケーション能力をいかに高めるか。実際に現場からは、若い社員のコミュニケーション不全を指摘する声が聞こえてくる。それはたとえば「相手の話を聞き逃してしまったとしても聞き直さず、『なぜ聞かないのか』と指摘されて初めて質問する」といった内容だ。
最近の若手社員の中には、対面型──人と人が向かい合ってきちんと話し合い、意見を交換するといったことが苦手な人が増えていると林氏は指摘する。そして、その原因の1 つは、子どもの頃から携帯電話やインターネットに慣れ親しんだ世代であるため、非対面型のコミュニケーションが当たり前になっているからだという。
人材育成の手法は、こうした社会の変化にも対応させていかなければならない。若手社員のコミュニケーション能力向上のアプローチについても、さまざまなトライアルを実施してきた。人事部内に若手社員のコミュニケーション能力向上を含めた育成全体の見直しについてのプロジェクトチームを立ち上げ、検討しているともいう。そうした中で行い、特に受講者に気づきを与えたものが笑いのワークショップだった。
芸人と銀行員の意外な共通点
そもそも笑いのワークショップは、初対面の参加者同士が活発に意見交換できる研修を探していたところ、たまたま見つけたものだった。
「実は、笑いにこだわったのではありません。むしろ、職場と違う雰囲気の中で話しやすい環境をつくるということが重要でした。そうした場で、視点やトピックを変えて話をすることで、仲間やお客様とのコミュニケーションの図り方についてや、今後自分がどうステップアップしていけばいいかということなどについて、気づきを得てもらうことができればいいと考えたのです」(林氏、以下同)
研修は東京と大阪で各1 回実施。受講は、管理職以外の社員に向けて公募した。その結果、狙い通り入社5 年めといった若い世代を中心に、東西それぞれ20 数名、合計53 名がこの研修に参加することになった。笑いについて学ぶことで仕事に活かしたい、顧客と対話するうえで何か参考になるスキルを手に入れたいと、自ら手を挙げた人がほとんど。だが中には「君はプレゼンの際に緊張しやすいから、この研修に参加して話し方のコツをつかんできたらいい」と上司に勧められて応募した人もいた。