企業事例 富士通技術学院 コミュニケーションの重要性に気づかせる 演劇的手法「インプロ」
ものづくり現場の働き方が変わってきている。少ない正社員が、さまざまなバックボーンを持つ人をまとめて、より良い製品をつくっていかなければならない。
そのためには、自ら方向性を示すと同時に、他者の意見を受け入れるというコミュニケーション力が必要になる。そこで、富士通技術学院では、頭と身体の両方を使うコミュニケーション能力開発の手法「インプロ」を導入した。
その具体的な進め方と効果を紹介する。
富士通技術学院(以下、学院)は、富士通グループの人材教育を統括する部門に属している。1958年に富士通技能研修所(前身)として発足以降、一貫して、ものづくり分野にかかわる基幹要員の教育に携わり、製造技術社員のテクニカルフォローアップと、現場のコアリーダー育成を担ってきた。毎年4 月から1 年間、 18歳の新卒採用社員から、30歳くらいまでの職場経験者、約35名の社員が研修を受講している。
社会人のコミュニケーション能力の重要性は、かねてから指摘されている。しかし特にここ数年で、ものづくり現場を取り巻く状況が大きく変わり、コミュニケーションの重要性が増したと富士通技術学院の教務マネージャー、佐々木誠氏は言う。
「ものづくり現場での働き方が変わったのです。さまざまなバックボーンを持つ方々が増えたことも1 つの要因ですし、変化のスピード自体も速くなっています。その中でさまざまな人たちと協力してより良い製品をつくっていくため、正社員にはめざすべき方向を伝えるとともに、皆の意見を引き出してまとめるコミュニケーション力が必要になります。昔ながらの規律や個人の技術の高さだけでは、全体をマネジメントできないわけです」
学院では、さまざまなバックボーンを持つ人々とコミュニケーションをとりつつ協働することが必要だと考え、テクニカル系教育と同時に、数年前から特にコミュニケーションを含めたヒューマン系教育に力を入れている。その両輪を回しながら、技術者教育を施しているのだ。
社員のコミュニケーション能力を高めていくためには、新たに何をすべきなのか。それを模索していた2007年春、教務主任の北島秀樹氏は「インプロ」を知ることになる。
「富士通グループ全体の人材教育を担うグループ会社であるFUJITSU ユニバーシティの取締役がさまざまな情報をメールで流しています。この中でインプロが面白いと紹介されたのです。直感的にこれはいいと感じ、すぐにインプロのワークショップを体験しに行きました」
基礎トレーニングにインプロを導入
インプロとは、インプロヴィゼーション(即興)の略語。元々は演劇などの即興芸術の世界で行われていた。即興演劇には、台本がなく、出演者全員がお互いの演技を尊重しながら、最終的に1 つのストーリーになるように演じ切る。つまり、即興を演じるには、状況を把握して受け止める適応力、予想外の事態に動じない決断力、筋をつくっていくための発想力や表現力が必要になるわけだ。こうした能力は通常の演劇の中での不測の事態に対応するためにも必要になるため、役者は日々トレーニングを行っている。
近年、このインプロがビジネスの世界で人材教育に応用されるようになった。ビジネスにも台本がない。1 人ひとりがステークホルダーとコミュニケーションをとり、不測の事態にも対応しながら1 つのストーリーをつくっていかなければならないからだ。
インプロでは台本がないためにまず「目の前の状況や、相手の言うことを受け止めること」を重視する。これは顧客や取引先に予想外のことを言われる可能性のあるビジネスの現場でも非常に大切なスキルである。また、身体を使うことも大きな特徴と言える。とにかく反応しながら考えるという訓練を通して、相手を受け入れると同時に自ら発信するというコミュニケーションの基礎から身につけることができるのだ。
「今までさまざまな研修やセミナーを受けましたが、インプロほど視点のユニークさを感じたものはありませんでした。多くの研修がセオリー通りであるのに対して、インプロでは先が読めず、終わって初めて理解できる。だからこそ、最後まで一生懸命考えます。