企業事例 NTTデータ 社内SNSの導入でセクショナリズムを排し コミュニケーションが活性化
1万人の大組織であるがゆえに、事業部単位のセクショナリズムがはびこり、コミュニケーション不足による無駄が目に付くようになってきていたNTT データ。
この状況を打開するために2006年4月に導入されたのが社内SNS だった。
今でこそ社内SNS は珍しくないが、当時としては先駆的な取り組み。
現在の参加者数は約9000人と、全社員のほとんどが利用するまでになった。
この成功の要因は、組織や役割、時間と場所など、さまざまな制約を越えたコミュニケーションができる仕掛けにある。
大組織ゆえのセクショナリズム問題
日本を代表するシステムインテグレーターの1 つ、NTT データ。2008年にNTT から分離独立して20年という節目を迎えるに当たり、さらなる成長のためには変革が必要であるとの問題意識から、意識・行動改革の取り組みを2005年から経営企画部の主導で開始した。まず、公募によって34人の社員が集まり、グループ全体のビジョンと10項目から成る行動ガイドラインを策定。この行動ガイドラインを浸透させるために別途66名の有志が公募で集って8 つのチームを編成した。そして各チームは10項目の行動ガイドラインから最も課題が多いと感じる1 項目を選び、それを浸透させるための施策検討と経営への提案を委ねられた。実は、これらはすべて通常業務と並行して行われたボランティアだったが、最終的にはそれがボトムアップの組織横断型変革活動へとつながった。
現在、営業企画担当課長を務める竹倉憲也氏も変革活動に参加した1 人。竹倉氏のチームが選んだ行動ガイドラインは「セクショナリズムを排し、仲間の知恵と力をあわせます」だった。
NTTデータは、電電公社時代から続く1 万人規模のピラミッド型の大組織ということもあり、部門間のセクショナリズムの発生しやすい環境にあった。官公庁、金融機関、一般法人など、マーケットごとに縦割りで事業を行ってきたことも大きな要因だった。「同じ会社の中にあっても、横断的な連絡が少ないため、似たような問題を複数の部門で抱え、解決までに時間がかかっていました。また、専門家集団のスケールメリットを活かせていないし、組織間の人材交流も少ない。こうした状況をいかに打破するかを課題としてとらえました」(竹倉氏、以下同)
このセクショナリズムを排するためには、何よりもコミュニケーションが重要。そこで竹倉氏が思いついたのはSNS(Social Networking Service)の導入だった。
実はNTT データには、以前から「社内電話帳」があった。かつては印刷物であったが、今はイントラネット上で閲覧できる。社員の氏名、社内電話番号、メールアドレス等がわかるシンプルなものだが、仕事上の必需品であり、社内で一番アクセスが多いのがこの電話帳だった。この社内電話帳に載せる個人情報を増やし、経歴、人脈、趣味、興味のあるジャンルなどのプライベートなことまで、社員1 人ひとりの“人となり”を見えるようにすれば、電話番号を調べるついでにお互いに親近感を持てるようになり、やがてコミュニケーションが活発になるのではないかと考えたのである。それについて若手メンバーから「その発想はmixi に似ていますね」と教えられた。
当時はまだSNS は黎明期で、大手プロバイダーのmix(i ミクシィ)もサービスを始めて間もない頃。その晩、メンバーから招待を受けて自宅で初めて使ってみたという。「実際にSNS に触れてみて、これだ!と直感しました。SNS は1 対1 のコミュニケーションが基本。これなら役職や部門の壁を越えたコミュニケーションも容易になり、個人同士をフラットにつなぐことができます。社内でも知人から知人へとたどることで、自然発生的に交流の輪が広がるだろうと思いました」こうして竹倉氏のチームは、社内SNS の導入へと動き出した。
社員自ら発信し、気づき、つながっていく
社内SNS の目的は3 つに集約できる。それは、個々の社員が自ら自由に発信すること、自分と同じ想いを持った他者に気づくこと、そして、さまざまな壁を越えてつながっていくこと(図表)。SNS を、自由に語れる“開かれた場”として提供することで、社員1 人ひとりが日頃の活動で得た情報や想いを発信するようになり、それに気づいた他の社員がメッセージを返してくれる───。こうした1 対1 の出会いがつながり、広がっていくことにより、途切れていた社内ネットワークを再構築し、組織や役割、時間と場所などの制約条件を越えたコミュニケーションが実現されると考えたわけだ。
この提案が執行会議承認を得られたのは2006年1 月。3 カ月でSNS のシステムを完成させた。
こうして2006年4 月にオープンしたのが社内SNSの「Next(i ネクスティ)」だ。各自のページは、①好きな写真、②プロフィール紹介、③仲間一覧*、④参加コミュニティ一覧、⑤日記、などで構成されており、トップページを見ただけで、その人の“人となり”がわかるようになっている。また、個々人が自由にテーマを設定してコミュニティをつくったり、参加したりすることができる。