My Opinion① 言葉を尽くす対話── 世代間ギャップ解消は中高年世代の対応しだい
日本企業におけるコミュニケーション問題の最大の関心事は、世代間のコミュニケーションギャップである。
最近の若手と中高年層とでは、育ってきた環境や会社に対する考え方があまりにも違い過ぎ、それが両者間のコミュニケーション不全として顕在化している。
この問題に頭を抱える企業が多い中、『若者のトリセツ』著者の岩間夏樹氏は、若者を変えようとするのは、もうあきらめたほうがいいと語る。
若手を変えようするのはあきらめよう
若手社員とのコミュニケーションに悩む企業が多い。「1 から10 まで説明しないと何もできない」「言ったことしかできない」「何でも聞いてくる」といった声をよく聞く。経営環境が厳しいにもかかわらず、どの企業でも新人から2 年め、3 年めくらいまでの若手社員に対する教育には資金も時間もかけている。それだけ、切実な問題だという意識があるのだ。
私が若手世代と中高年世代のコミュニケーションギャップについて調査を開始したのは1995年。当時は団塊世代とその子ども世代(団塊ジュニア)がテーマだった。それから約15年が経過し、今では当時“若手”と呼ばれた世代が、同じように若手について悩んでいる。俗に言うジェネレーションギャップは、いつの時代でも存在するのである。今考えなければならないのは、普遍的に存在するジェネレーションギャップ、そしてそれに伴うコミュニケーションギャップが、なぜこれほどまで問題視されるようになったのかという点だろう。
実は、若手社員との間にコミュニケーションギャップを感じている中高年社員は、若手社員が自分たちに合わせることを無意識のうちに望んでいる。自分たちが当然としてきたコミュニケーションスタイルを理解し、身につけてもらいたいと求めているのだ。しかし、それを求め続ける限り、この議論は永遠に繰り返される。だから私は最近、「上の世代はもう、若い世代を変えようとするのはあきらめたほうがいい」と訴えている。
会社への信頼度が違う若手と中高年
あきらめたほうがいい理由はいくつかあるが、中でも大きいのは、現在の若手世代と中高年世代とでは、ベースとしている価値観や考え方がまったく異なるということだ。最も顕著なのは、“会社”に対する考え方だ。
中高年世代にとっての会社は、非常に重要な存在だった。終身雇用の名のもとに、ほぼ一生、面倒を見てもらっていたからだ。終身雇用制と年功序列型賃金は、かつての日本企業の、社員に対する求心力の源泉だったのである。だから、当時の社員にとって会社は最も尊重すべき存在であり、会社に対する忠誠心も極めて高かった。多少の疑問や不満は我慢するのが当たり前で、「会社が言うから」という一言が、それを納得して受け入れるに十分な理由となったのである。
しかし、近年の若手世代はそうではない。バブル経済崩壊後、自分たちの親に当たる世代がリストラされるのを目の当たりにした彼らは、会社という存在に対する信頼感を喪失してしまった。だから「会社のため」と言われても、理不尽なことや納得できないことを我慢する理由がないのである。
そのうえ現在の若手世代は、上の世代の“割”を食っている。伝統的な大企業になればなるほど上の世代が多く、年功制がまだ色濃く残っているため、若手は働きに対して報酬が少ない。しかも上の世代は、かつての自分たちがそう扱われたように、若手世代を酷使してしまう。会社に求心力がある時代だからこそ成り立った我慢を、現在の若手に求めてしまうのだ。その結果、耐え切れなくなった若手は、次々と離職していく。それが現状だろう。
働くことに対するスタンスもまったく異なる。中高年世代が20代、30代の頃は、頑張る条件が整っていた。「いつかは郊外に一軒家を買う」といった夢を胸に、頑張れば頑張るほど報われた時代だったのである。しかし、雇用が不安定な今日では、明確な将来像を描きにくい。しかも、市場が縮小傾向にある現在では、頑張っても報われないことが増えてきている。