連載 HR Global Eyes 世界の人事 ニッポンの人事 Vol.9 個人の幸せを官民で追求した デンマークの雇用モデル
会社員にとっての幸せとは?
日本がバブル真っ盛りの頃、パリ支社で悪戦苦闘していた私は、東京の同僚たちの収入を聞いて仰天した。出向ながらフラン建てで、幹部社員としてフランスの相場では人並みの年収なのに、日本の仲間のボーナス込みの手取り金額を為替換算するたびに、正直へこんだ。悔しくもなったが、ある時、馬鹿らしくなって比較換算するのをやめた。意味がないことに気づいたのだ。
その頃、出会った言葉が“Quality of Life”(QOL)。元々は医療現場の用語で、医療者が病気の治療にばかり専念しているうちに忘れがちな「患者さんの生活の質」に目を向けるべきだという文脈で出てきた言葉だ。
この時ふと、QOL は誰にだって当てはまるだろうと思い立った。金という“量”から生活の“質”へと見方を変えると、見えてきたのは自分の“幸福度”だ。
仕事の厳しさはパリでも同じだった。徹夜もあるし、車の出張移動は年間3 万km 以上とバテバテになる。それでもオフィスと住居は近く(通勤は1 時間未満)、豊かな食生活、長いバカンス(1 ~ 2 週間の滞在型スキー、夏山トレッキング、エーゲ海クルーズ)など、仕事と余暇のメリハリの利いた生活は何物にもかえがたい。ワークライフバランスという意味でも、実感として「自分は確かに“幸せ”だ。日本の同僚のQOL 以上なのだ」と確信できたのが収穫だった。
フランスでは、国民の約68%がバカンスを取り(2007年)、今もその人数は年ごとに増えている(1994年は62%だった)。そもそも「有給休暇」自体、フランスが世界で初めて確立した制度だ(第一次世界大戦後のレオン・ブルム社会党人民戦線内閣時代)。バカンスはお金持ちの専有物ではなく、お金はなくともないなりに、庶民も命の洗濯を楽しめるのが素晴らしい。余暇は「余りもの」ではない。英語のレジャー(LEISURE)のラテン語源(LICERE)は「行動の自由が“認められている”」こと。“自由に幸福である権利”として、約75年前に勝ち取ったものなのだ。