TOPIC① JAASシンポジウム「日本の人事部─ その役割の本質と課題─」レポート 人のことを知っている人事であるべきか、 ビジネスを知る人事であるべきか
去る2009年11月7日、東京工業大学大岡山キャンパスで開催された経営行動科学学会(JAAS)第12回年次大会において、『日本企業の人事部─その役割の本質と課題─』と題するシンポジウムが開かれた。
話題提供者である金井壽宏氏、守島基博氏、平野光俊氏の三大学教授は、ともに戦略型人事・ビジネスパートナー型人事への人事部の機能転換を研究している。
今、日本企業の人事部に求められている役割とは何か? そのディスカッションの模様をレポートする。
オープニングは平野光俊氏による、シンポジウムの主旨説明から始まった。
バブル崩壊後、とりわけ1990年代後半から、日本企業の人事部のあり方が盛んに論議されてきた。議論の方向性は大きく分けて2 つ。1 つは人事部不要論*1。もう1 つは戦略型人事・ビジネスパートナー型人事への人事部の機能転換である。
しかしその実、戦略的あるいはビジネスパートナー的人事部というのは、よく言われる言葉だが、具体的にはどういう役目を負うのかが、わかっていないのではないか? という疑問は否めない。
今回は2009年2 月に神戸大学大学院経営学研究科と経営人材研究所、日本能率協会が共同で行った日本企業の人事部長(有効回答数:365社)、製品や業態あるいはビジネスシステムの開発部長(有効回答数:321社)を対象に行ったサーベイ*2での結果を利用し、戦略的パートナーとしての人事部について問題提起をする機会とした。
サーバント・リーダーとしての人事部の役割
神戸大学大学院 経営学研究科 教授
金井壽宏氏
金井氏はまず、人事部には現場にとって必要な人事をして欲しいという想いがあると前置きした。
そこで、人事部に必要となるのが、サーバント・リーダーの考え方である。サーバントは「付き従う人」という意味で、リーダーは、「自分の言うことを聞かせる人」を意味する。一見相容れない言葉を1 つに合わせることで、金井氏が示唆したのは、フォロワー(リーダーに従う人)が本当に意味ある方向(ミッション通りの方向)に向かっている時は、リーダーはフォロワーに対して奉仕する気持ちを持ったほうがパフォーマンスは向上するということだ。
では、サーバント・リーダーとしての人事部とは何か。たとえば、優秀なCEO が、その下の役員クラスを次世代リーダーとして育て、そうして育てられた役員クラスが、部長クラスをリーダーとして育てることがある。そういうリーダー育成の連鎖を、現場任せにするのではなく、仕組みを使って側面からうまく支える人事部だと言う。
では、人事がサーバント・リーダーとなるためには、具体的に何が必要なのか。その前に金井氏は、人事が現場に効果を及ぼすことのできる5 つの役割──人事がいるおかげで、ラインマネジャーだけで取り組むよりも成果が出ることは何かを、経営学者のD・ウルリック氏の考え方をベースに紹介した。
それは、①戦略パートナー(人事がいるおかげでラインマネジャーだけが戦略立案するよりも効果的な戦略を立て、効果的に実施するという役割)、②変革エージェント(組織変革を促進させる役割)、③能率エキスパート(事務処理を効率的にする役割)、④従業員チャンピオン(従業員の声を吸い上げ経営層に伝える役割)、⑤文化ガーディアン(理念や組織文化を従業員に浸透させる役割)である*3。
このうち、③と④はアウトソーシングできるが、その他はできない。そして①、②、⑤の役割を果たすためには、人事は人のことを知る以前に、ビジネスのことを知らなければならないという認識を持つ必要があると主張した。
では①、②、⑤が人事に求められる役割だとして、人事はどうしたらサーバント・リーダーになることができるのだろうか。金井氏は経営学者のエドガー・シャイン氏の「なぜ人を助けるのが難しいのか。それはそもそも相手が何をしてもらいたいのかわからないからだ」という言葉を紹介したうえで、人事部にとっては、「何を知っていたら、社員を助けることができるのか?」と投げかけた。人に関する情報を、書類上や生き字引的に知っていることなのか、それとも、戦略などのビジネスに詳しいことなのか。これをぜひ、考えて欲しいと会場に呼びかけた。
そして最後に、サーバント・リーダーとしての役割を果たそうとする時、落とし穴があることも指摘した。人事としてラインマネジャーに奉仕する時、会社がめざすものに沿っていなければ、ただのサーバントになってしまう。サーバント・リーダーとは卑屈なものであってはならず、高い志が必要なのだと述べた。