連載 ベンチャー列伝 第14 回 ビジネス感覚を持った 新しいエンジニアを育てる
社員のほとんどがIT エンジニアであるヘッドウォータース。
エンジニアを価値ある存在とするために事業部運営を全面的に任せ、経営を担えるビジネスエンジニアとして育成。
世界に通用する、新しいエンジニア像を強く打ち出している。
システム開発を手掛けるヘッドウォータースは、若手エンジニアや就活学生の人気を集めるIT 企業として知られる。創業は2005年と新しいが、その創業者であり代表取締役の篠田庸介氏の世界へ挑戦しようという熱い想いと、同社のビジョンに共感してのことだ。
とは言え、創業までの道程は平坦ではなかった。それは篠田氏のキャリアを振り返るとよくわかる。
「日本経済がバブル景気に湧いていた頃、ある経営者に会ったことをきっかけに、大企業への就職ではなく、事業を起こす道を考えました。背水の陣をしかなければ事業家として成功できないと思い、大学をやめ、その人が立ち上げたベンチャー企業に参加することにしたのです」(篠田氏、以下同)
弱冠21歳の時である。事業は総合卸売。正規代理店が独占する販路に風穴を開け、独自のルートを開拓してモノを売っていった。寝る間も惜しんで仕事を続け、トップセールスを取るようになった。しかし、社員数も200人近くになり、儲かる構造ができてくると、尊敬していた社長が事業に集中しなくなっていく。会社の業績が下降する中で、無給で営業活動に奔走したが倒壊を止められず、仲間4 人とやむなく独立した。
新事業はCG(コンピュータ・グラフィックス)を使った商品を販売する会社。営業に自信があったので、自身は前線に立って、年上のメンバーに社長をやってもらうことにした。「5 年間で業績は大きく伸びました。いい商品があれば、必ず誰かが買う。マーケットが縮もうが、競争が激化しようが、お金はどこかにある。そこに売っていくのが商売の基本だと。そこに面白さ、醍醐味を感じて営業組織をつくり、前線で仕事をしてきました」
ところが、この会社も業績が向上してくると、社長が遊興にふけって事業への意欲を失っていった。また、出資者は目先の利益にしか関心を示さず、方向性にもズレを感じた。このままでは部下たちの未来も暗いと感じ、社長交代を進言したが通らず、やむなく自ら社長として起業するに至った。
そうして自ら立ち上げたのが、eラーニングソフトの開発・販売を手掛ける会社だった。5 年間で事業は伸びていったが、先輩や友人といった仲間と設立した会社のため、馴れ合いの側面が出てきた。さらにe ラーニングソフトも、パッケージからインターネットを介してソフトを提供するASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)へと変わっていき、売り上げも頭打ちになった。次の事業展開を模索しようにも、メンバーの意見が一致しなくなっていた。報酬などの利害関係で付き合ってきた結果だった。そこで社長を退任することを決意。36歳になっていた。
マネジメントができるエンジニアを育成する
「これまでの経験から、個々人の私欲で集まった組織は脆いことを痛感しました。だから、新しい会社、ヘッドウォータースをつくる時には、まずは自分1 人から始め、共感してくれるメンバーを1 人ずつ集めていって、強固な組織にしようと考えたのです」
社員を集める際、条件面などは一切言わなかった。同社が提唱しているビジョン、これを成し遂げるために協力してくれるのだったら来て欲しいとだけを伝えて採用を行っていったのである。その考えは5 年経った今でも変わらない。そして、IT エンジニア中心の140人の組織が出来上がった。
IT で起業を決意したのは、「ビジネスエンジニア」と呼ぶべき新しいエンジニア像を確立したかったから。新しい価値を生み出す力を持つエンジニアがビジネス感覚を身につければ、エンジニアの地位が向上し、日本の競争力を支える支柱になるはずだ。しかし篠田氏は、それまでのIT エンジニアが抱える大きな問題に直面することになった。
「経営は結果がすべて。それに対してエンジニアは売れる/売れないということにあまり関心がない。そのままでは、いつまで経ってもビジネスに直接貢献できるようにはなりませんし、マネジメントにも携わることができません。ビジネスというのは組織が介在して成り立つもの。そこで予算を組んでクライアントの要求を達成し、評価が決まる。エンジニアにありがちな職人の世界とは根本的に違うのです」