JMAグループ「人づくり実態調査2009」レポート 1000社の調査データから見えてくる 企業における人材教育の実態と課題
リーマンショック以後、不景気の真っ只中で、企業の人づくりに対する姿勢はどのように変わっているのか。
日本能率協会グループではHRM 研究会を立ち上げ、約1000社を対象に人づくりに関して「評価・処遇」「採用・アウトフロー」「配置・異動」「人材教育」の観点から調査した。
本稿では、「人材教育」に着目して企業の現状を紹介する。
今、企業における人づくりは転換期にある。大きなうねりとなった成果主義ブームのあと、新たな時代を模索する只中にあって、リーマンショックの不況の嵐が襲った。いきおい、経営の舵取りは短期的な財務の建て直しの方向に向かい、中長期を見据えての人づくりに費やすエネルギーは弱まっていると見るのが現時点での一般的な見方であろう。ただし、一方では、成果主義の功罪も含め、「人こそ命」と改めて企業経営の中核に“人”がいることが再認識されているのも確かだ。
日本能率協会グループのHRM 研究会では、人づくりの実態を定期的に把握していくために、今回、1000社という大掛かりな規模で調査を実施した。本稿ではその中から、人材教育の実態が今、どうなっているかを以下に整理したい。
「自社価値観」「チーム」を重視する方針が鮮明
調査ではまず、各社の人材教育の全体方針に影響すると思われる6 つの視点から価値観について尋ねた(図表1)。設問では1 つの価値観に対して、相反するA とB の方向性を設定し、現在の自社の方針が「A に近い」「どちらかと言えばA に近い」「どちらかと言えばB に近い」「B に近い」の4択としている。
調査の結果、全体の方針が明確になっているもの(A・B どちらかに70%以上傾倒しているもの、以下同)は、施策立案時の「(社外動向より)自社価値観を重視75.0%」、教育のスタンスとして「(個より)チームを重視74.1%」、人材教育の運営主体として「(ライン部門より)教育部門70.4%」であった。また、まあまあ明確なもの(60%以上70%未満)は、教育の重点対象として「(選抜教育より)底上げ教育へシフト66.1%」と、教育体系の設計の考え方として「(詳細設計より)大枠設計67.4%」であった。どちらかに寄らずに方針が拮抗しているもの(60%未満)は、経営環境と教育予算の関係についてで、「環境と関係なく一定予算確保55.3%」が主流となっているが、「経営環境で大幅に加減44.7%」も半数弱を占めている。
2008年度後半以降の各社の厳しい経営状況を背景に、コスト削減の波が教育分野にも及んでいることがうかがわれる。
人づくり成功グループは「一定予算確保」の傾向
さらに、「人づくり成功グループと低迷グループ」* において、人材教育の方針に違いが見られるかどうかを確認した(図表2)。
人づくりが業績向上に貢献している成功グループの特徴は、教育予算は「経営環境と関係なく一定予算確保」、教育のスタンスは「チームを重視」、教育体系の設計は「詳細設計」が高いことである。反対に、低迷グループにおいては、全体の傾向に反して「経営環境で大幅に教育予算が加減される」傾向が強く表れる結果となった。
また、人づくりの価値観・方針については企業規模による影響を受けている可能性が高いので企業規模の傾向も見てみたい(図表3)。従業員規模別で見ると、大企業になるほど「自社価値観を重視」「チームを重視」「教育部門主体」の傾向が顕著になっている。教育体系の設計は全体では「大枠設計」が主流であるものの、大企業になるほど「詳細設計」の傾向が強い。