企業事例 富士通 ハイパフォーマー映像から 気づきを得て サービス品質を高める
IT インフラの運用・保守を基幹業務とする富士通インフラサービスグループは、激変する事業環境に対応するため、ハイパフォーマーの現実の仕事場面を記録した映像から“気づき”を得て、サービス品質を向上させる研修プログラムを2005 年から開始した。
指示待ち型ではなく、自ら考える人材を育成するという当初の目標をほぼ達成した今、多様な映像素材を用いて、現場自らが自律的に何をすべきかを考えることができる企業文化の醸成をめざしている。
コンピテンシー教育と従来型OJTの限界に直面
上司や先輩の背中を見て若手は育つ──。現場の人材育成ではよく言われることだが、それをより効果的に行うツールがある。ハイパフォーマーの仕事ぶりを映像に収録し、それをグループで見て議論し、“気づき”を得る研修プログラム「S-MAX」である。
IT システムインフラの保守を手掛ける富士通インフラサービスグループが、映像研修を導入したのは2005 年。当初の目的は、保守部門のカスタマーエンジニア(CE)の育成であった。
対象となったCE は全国86社850拠点のパートナーも合わせて約8000人。年1 回以上、各職場で受講が義務付けられ、現在はコールセンターや技術支援部門、企画・管理部門にも展開し、約9000人が利用している。
富士通インフラサービスグループが映像研修を導入するに当たり、その中心的役割を担ったのが富士通エフサスである。映像研修導入の背景について、人材開発統括部長の隈部壽明氏は「グループでは以前から、人間力向上を図るコンピテンシー教育と、現場でのOJT でCE を育成してきたが、近年、それが難しくなってきた」と語る。コンピテンシー教育では一時的に能力は向上するものの、その後も自ら学び、成長していけるかどうかは本人次第。またOJT についても、業務を巡る環境の激変により、従来の進め方では難しくなってきたというのだ。
「かつて新人は先輩CE の後ろについて仕事ぶりを見て学び、技術や知識を身につけてきました。しかし今や技術は日進月歩。IT システムに接続するサーバやストレージ機器、パソコンなども多種多様で、プリンタなどの周辺機器も含めれば種類も数も膨大になります。それがより複雑で高度になったIT システムにつながっているわけですから、トラブル対応も一筋縄ではいきません。内容が複雑化、多様化するにつれて仕事量が増え、じっくり育てる余裕がなくなってしまったのです」(隈部氏、以下同)
富士通エフサスの基幹業務は、企業内IT インフラの構築・運用・保守である。かつて大型コンピュータで集中的に一括処理していた時代には、保守も富士通製品だけに対応していればよかった。しかし今やIT ネットワークが当たり前。メーカーも仕様も多様なパソコンやサーバをはじめとするさまざまなIT 機器がネットワークに接続されている。こうして複雑化したネットワーク環境下で何らかの障害が生じた場合、その原因究明すら容易ではない。一刻も早く業務を再開しなければならない、そんな状況に迅速かつ的確に対応できるサービス品質の高さこそが、他社に差をつけ、厳しい競争に勝ち抜くカギになるのだ。
このような事業環境の変化に対応すべく、富士通インフラサービスグループはグループ方針として「お客様起点で考え、一歩前を先取りして新しいニーズをつかんで提案し、かゆいところに手の届くサービス」を掲げた。しかし、現場は混乱した。
「自分で考えてお客様に提案しなさいと言われても、どうすればいいのか見当がつかないわけです。今までは現場でやるべきことがはっきりしていて、その範囲内でお客様の要望にお応えすればよかったのですから」
新しい方針を徹底、実践していくには、従来のOJT に依存したやり方では限界がある。「自ら考える人材」を育成し、継続的な気づきを促す教育プログラムが必要になった。そこでたどり着いたのが、ハイパフォーマーの接客行動の映像を使った研修だった。