My Opinion① 直接経験の場をつくることが イノベーションにつながる 気づきを生む
企業や個人の持続的な価値創造に欠かせないのは、商品開発や、組織変革などのイノベーション(革新)である。
「知識創造理論」の世界的権威、野中郁次郎氏は、現場での直接経験による“気づき”が、イノベーションが起こる過程の中で非常に重要であると強調する。そして、気づきを起こすためには、組織と個人の知の相互作用を生む“場のマネジメント”が重要であるという。
イノベーションが起こる過程には必ず“気づき”がある
変化し続ける現在の社会・ビジネス環境の中で、企業や組織にとって、いかに継続的に「知」を創造・蓄積・活用していけるかは大きな課題である。私の提唱する「知識創造理論」では、組織や個人の対立する知さえをも高い次元で“綜合”*するプロセスモデル「SECI(セキ)モデル」(図表1)を提示している。優れた業績を上げる知識創造企業では、この知の綜合プロセスが高速で回転し、正のスパイラルによって、画期的な商品開発や組織変革といったイノベーション(革新)が起こっているのである。
人や組織がイノベーションを起こす時、必ず個人の“気づき”があり、それはSECI モデルの第一段階「共同化」の中で起こる。ならば、この気づきを起こす背景を知ることが重要だ。だが、本題の前にSECI モデルについて簡単に説明しておく。
知識には、「暗黙知」と「形式知」がある。暗黙知とは「言語・文章で表現することが難しい主観的・身体的な経験知」、形式知とは「言語・文章で表現できる客観的・理性的な言語知」である。知識は、この2 つの知の相互変換運動で創造される。個人や組織内で絶え間なく知が変換・移転(スパイラルアップ)されることで新しい知を生み出し、自己変革する活力を生み出していく。SECI の流れは次の通りだ。
①共同化= Socialization
体験の共有などにより、暗黙知を獲得・伝達する。直接経験を通じて気づきを得て共感し、相互理解を進める。
②表出化= Externalization
①で得た暗黙知を、他者と共有できるように形式知に変換する。他者と対話し、たとえなどを用いて、本質をコンセプトに凝縮する。
③連結化= Combination
コンセプトを体系化し、形式知を関係づけモデル化するプロセス。コンセプトを分析的に、徹底して突き詰めていく。IT を活用し、データベースやマニュアルなどに蓄積、活用する。
④内面化= Internalization
体系化された形式知を、実践の中で血肉化する。個人の中に経験を蓄積し、形式知を身体知(暗黙知)化していく。
⑤再び、共同化へ
内面化によって得られた新たな個人の暗黙知を、再び共同化へとつなげていく。