巻頭インタビュー 私の人材教育論 教育は会社が抱える課題を 解決する手段
創業60周年の2005年4月、ニチレイは持株会社と5つの基幹事業会社からなる持株会社体制に移行した。2007年に持株会社ニチレイの社長に就任した村井利彰氏は、低温物流の分野では日本のリーディングカンパニーであり、世界でも6位というニチレイロジグループ本社の社長でもある。村井氏がニチレイロジグループ本社の社長に就任したのは2005年。強いリーダーシップで人材育成に取り組み、社員の意識改革を促すことで、低迷していた業績を2年でV 字回復させた。
現在、その取り組みはニチレイグループ全体に広がりつつある。
社員の教育はトップに責任があると語る村井社長に、ロジグループでの試みについて伺った。
ESがなければ、CSは達成できない
── ニチレイグループは、社員をはじめ契約社員、派遣社員、パート・アルバイトといったすべての従業員を対象に、毎年ES(従業員満足度)調査を実施していると伺いました。
村井
2007 年からです。元々は、私が2005 年にニチレイロジグループ(以下、ロジグループ)で始めたものです。それまでも単発では実施していましたが、社員の働きがい向上を目的にES調査を毎年行うようになったのは、ロジグループの取り組みが最初です。
── なぜES 調査をしようとお考えになったのですか。
村井
低温物流を担うロジグループは他のグループ会社に先駆けて、2004年に地域ごとに分社化されていましてね。ちょうど私がロジグループの社長に就任する前年ですが、この時、地域ごとに事業会社を設立して地域賃金が導入されたのです。当時のロジグループは赤字でこそなかったものの、基幹事業としてふさわしい収益を上げていなかったからです。
それまでは競合相手となる地域の中小の冷蔵会社と当社では、明らかに当社の給与が高かった。これではコスト競争で勝てない。そのため管理職は全員給与カットを余儀なくされました。
いまだにロジグループと他のニチレイグループ企業の間には、管理職の給与間格差があります。ロジグループのほうが、東京では3%、九州や北海道だと10% 安い。ですから、私が社長に就任して、各社に挨拶回りをすると、「娘が結婚するまではニチレイの社員でいたかった」「(給与が安くて)銀行がなかなかお金を貸してくれない」といった恨みつらみの声を、社員からずいぶん聞かされました。ロジグループの社員は相当不満を抱えていると感じ、一度、ES 調査をやってどういう思いを抱いているのかを明らかにしないといけないと思ったのです。
もっとも、やりたくないなぁというのが正直な気持ちでした。「自分の職場に満足していますか」「経営方針を理解していますか」などという設問に対しては、やはり上長に厳しい結果になりますからね。ただ、不満があることだけわかっても意味がないので、原因を探るために記述欄も設けました。
── ES 調査と同時期にCS(顧客満足度)調査も行ったそうですね。
村井
そもそもES 調査の目的は、ナンバーワン企業になるための施策です。ニチレイグループの発想と行動の原点は、「ひたすらお客様のために」というもの。お客様第一を貫くには、現場で日々お客様と接する社員1 人ひとりが仕事を通じて働きがいを感じていなければ、お客様の満足度を高めることはできません。課題を改善していくためにも、お客様はどのように我々を評価しているのか、当社の実際の姿を把握したかったのです。
率直なご意見を伺うために、CS 調査はインタビュー方式で行いました。お客様からの「仕事はまじめだが提案が少ない」というご意見は、耳が痛かったですね。ある事業所では、受付窓口の電話の応対が横柄だと名指しされたこともありました。社員が仕事や職場に不満を抱えていては、こうしたお客様のご不満を改善していくことはできません。
部下を育成するマインドを醸成
── ES 調査からは、どういったことがわかったのですか。
村井
満足度の高低は、物流センターや運送事業所ごとにはっきりと分かれたということです。無記名の調査ですから、誰が何を言ったということはわかりませんが、その職場の満足度については明らかになります。
さらに満足度の高低は、センター長や所長のリーダーシップで大きく左右されることもわかりました。上司と部下のコミュニケーションがうまくいっている職場は満足度が高い。ですから、2007 年から2008 年にかけて、ロジグループの全役職者465 名にコーチング研修を受講させました。聴く・話すというコミュニケーションの基本スキルとともに、部下を育てるというマインドを学ぶことをめざしたのです。特にロジグループにはどうも、ほめる文化が欠けている。そのあたりのことも含めて人事に頼んだのです。
私自身はコーチング研修を受けたことはないのですが、本はずいぶん読んでいました。スポーツ分野はもちろん、ビジネスの現場でもコーチングは有効だと思えたのです。