連載 HR Global Eyes 世界の人事 ニッポンの人事 Vol.10 女性が出産・育児を逡巡しない システムの構築が企業と国を救う
保育所問題だけでは解決しない女性の出産・仕事ジレンマ
偶然の符合なのだろうか。「解雇・離職の柔軟性と、再就職の安定保障の両立」について書いた前号の原稿を校了した2010年2 月4 日、朝日新聞の投書欄に、妊娠4カ月の女性(東京都・28歳)がこんな「声」を寄せた。
待機児童の増加から、保育所の増設や幼保一元化が政治トピックスになっている中で、彼女は「乳児期の子を預けて早期復職を望む母親が、実際どれくらいいるのでしょうか。そこには、育児退職して一度正社員の座を手放した後の復職が困難な現状や経済的不安から、やむなく乳児を預けて働く母親の現実があります。(中略)もし3 ~ 5 年育児に専念した後でも復職・再就職が柔軟にできる社会であれば、私は一度退職して育児を十分に経験したい。そんな社会になれば、0 ~ 1 歳児の保育所不足も緩和されると思います」と、率直に本音を述べている。出産という天から授かった恵みと、社会構成員として経済的理由や自己実現のために“働く”ことについてのジレンマは、多くの女性の悩みだろう。
現行制度では、出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金など「金銭的補助」は、“少子化”という危機感から、以前よりは改善されてきたらしい。そのせいか、合計特殊出生率(女性1 人が生涯に産む子どもの数)も2005年の1. 26人(過去最低)から、2008年には1. 37人と上昇傾向に転じ始めた。それでも、世界からすればまだ圧倒的に低い。
少子化が話題になるたびに引き合いに出されるフランスの出生率は、ここ数年2.0人のレベルで、デンマークなど北欧3 国(1.9人~1.8人)やイギリス・オランダ(1.7人)を抜いて、EU トップの座にある。しかし、出生率を上昇させるのは容易なことではない。フランスでも2.0人になるまでに、15年以上を要した。人口ピラミッドから算術予測できたことなのに、日本だけがバブルに浮かれて歯車を逆に回したツケなのだ。