論壇② 「突撃☆お仕事インタビュー」 ~職場をウロウロする人事~
現場を知る──人事にとってこれほど重要なことはないだろう。だが“人事”という看板が、従業員に警戒心を抱かせ、本音を引き出すのを難しくすることもある。そこで、フリービットでは、相手に安心感を抱かせ、話しやすい雰囲気を持つインタビュワーの要件を、「ほんわかコンピテンシー」として定義し、インタビューを成功させた。
本稿ではフリービットでこれまでに251名(2010年2月現在)に対して行われた「 突撃☆お仕事インタビュー」の具体的な内容を紹介する。
成果主義で失われた「ウロウロする人事」
フリービットでは、アポなしの全従業員インタビューである「突撃☆お仕事インタビュー」を実施しているが、人事が現場を歩き回り、従業員から情報を取ってくるようなことは、従来の日本企業では自然と行われていた* 1。しかし、俗に「失われた10年」とも呼ばれる1990年代、日本の人事制度がそれ以前の年功型から、能力主義型、成果主義型へと大きく転換した。おそらくこの頃から、こうした歩き回る人事はあまり見られなくなった。
かつて年功制度を基礎としていた頃は、年齢によって処遇が決まるとは言え、人事は従業員の評価を放棄していたわけではない。むしろ、数値的な査定のうえでは差がつかない従業員の中から、将来の幹部候補を選別するという、今よりも重要で困難な役割を担っていたと言ってよいだろう。
具体的には、当時の人事は、社内を歩き回り、多くの従業員と対話し、その活動を通じて社内に形成された個々の従業員の“評判”をつかんでくるような存在であったようである*2。
一般に、社内での(良い)評判の形成には、自分の職責を越えて同僚の仕事を長期にわたって助けていくような態度が求められることから、ある従業員の評判は、(不完全な指標ではあるものの)長期にわたるその従業員パフォーマンスを表すものとして位置付けることができる。かつての人事は、社内を歩き回り、対話を繰り返すことで、将来の幹部候補を見つけ出す活動をしていたわけである。
ところが近年の能力主義や成果主義の導入により、こうした評判をベースにした人事評価は、機能する基盤を失ってしまった。この結果として失われたのが職場をウロウロと歩き回り、多くの従業員と対話する人事の存在だ。
時代とともに、人事制度が変化していくのは当然である。しかし、いかなる変化であっても「変わるべきもの」と「残すべきもの」があることは自明だ。職場をウロウロと歩き回り、多くの従業員と対話する人事は、こうした人事制度の変化の中でも、残すべきものではなかったか、というのが我々の意見である。といっても、過去をそのまま踏襲するのではなく、多忙な現在に適した対話の仕組みが必要である。本稿では我々の経験をもとに、どのような仕組みであれば、従業員の本音を引き出し、かつそれを組織的に共有できるのか、そのポイントについて紹介したい。
ニーズを探るインタビュープログラムの設計
弊社フリービットは「Internet をひろげ、社会に貢献する」を企業理念として2000年に設立され、2010年2 月現在、グループ企業とパートタイムを含めると全体でおよそ700名の従業員がいる。我々戦略人事部は2009年5 月末より、この700名全員に対して、アポなしインタビューを開始した。以下にその具体的な設計・実施・効果について述べる。
●インタビュープログラムの設計
アポなしの全従業員インタビューの設計に当たって考慮したのは「対話」の機会創造である。『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社)では、人が相互に理解を深め考え方や行動を変革するための方法として「対話」の有効性が論じられているが、ここでの「対話」とは「共有可能なゆるやかなテーマの下で、聞き手と話し手で担われる、創造的なコミュニケーション行為」と定義される。雑談、対話、議論は似ているようで異なるものであり、同書の定義を借りると、次のように示すことができる。
そこで、このプログラムの設計では、プログラムにあえてくだけた「突撃☆お仕事インタビュー」という名前をつけることによって、「対話」に求められる自由なムードを少しでも演出することを心がけた。