論壇① スマートHRDをめざして 人材開発部自身が変わる
激変する経営環境の中、人材開発部に対する経営層の期待が高まってきている。
まさに今こそ、人材開発部が経営マインドを持って経営戦略を実現できる人材を育てていくことが求められる。
本稿では、そうした人材開発部を「スマートHRD」と名付け、必要な要件を紹介していく。
人材開発部への高まる期待
数年前から、経営者が人材開発部について言及することが多くなったように感じる。「経営環境が激変する中で、社員に求めるスキルも急速に変化してきている。現場からも、人材開発部への要望の声が数多く挙がっている。しかし、肝心の人材開発部は、なかなか階層別研修の発想から抜け出せない。どうしたものか」── 幾人かの経営者から、このようなお話を伺った。
実は今こそ、経営者は人材開発部に期待をしているのである。企業には、時代時代によって、出世コースと目される部門が存在する。その時期に最も重要だが、不足している資源を司る部門がそれに当てはまる。
たとえばバブル期は、相対的には投資先が不足し、有り余る資金をどう運用するか、また攻めの多角化をどう設計し実行するかが重要な経営課題となった。その結果、財務部門や経営企画部門の重要性が高まった。
そして、今に続くバブル崩壊後のグローバル競争時代。過去の経験が活きない不確実性の時代になった。変化が異常ではなく常態となっている今、最重要の経営課題は、“変化対応力”の獲得である。変化対応力とは、ヒトやその集合体である組織が、自律的に変化を察知、判断、行動すること。ヒトの能力が最も重要かつ稀少な資源なのである。そして、それを司るのが人材開発部であり、この傾向は急には変わらない。近い将来経営陣となるには、人材開発部での経験が欠かせないものになるだろう。それをまず確認しておきたい。
これは、従来の人材開発部のイメージとは、大きくかけ離れていると感じるかもしれない。そこで、従来との違いを際立たせるために、本稿ではこれから脚光を浴びるべき人材開発部門を「スマートHRD」と呼び、その役割を定義し、備えるべき要件を整理していく。
成果創出のための4つのドライバー
先に述べたHRD の重要性を、改めて人的資源管理の観点で説明してみよう(図表1)。
企業の目標は、言うまでもなく成果を上げ続けることだ。そのために、さまざまな機能を備え、それを実行する組織をつくる。そして、組織が成果を生み出すには、優れた経営戦略と環境に適合した組織文化が欠かせない。それらが成果創出活動の方向性を示し、エネルギーを生み出す。その際、創出活動を実際に行うのは、ヒトである。
この最も重要なヒトに働きかける成果創出のドライバーは、「採用」「インセンティブ」「配置」「能力」の4 つに整理できる。そして各ドライバーの重要度は経営環境によって規定される。たとえば、終身雇用を前提とすれば、好景気時は新卒採用を最優先とすべきで、競争環境が比較的安定していれば、インセンティブと配置を適切に設計・運用し、組織の安定性と効果性の両立を図るべきだ。しかし、経営環境の不確実性が高く、変化が激しい時代には、ヒトや組織が保有する能力を環境変化に迅速に対応させることが最重要となる。現在がまさにその時だ。冒頭で紹介した経営者の発言は、そのような問題認識に基づいていたのだろう。
このような期待に、スマートHRDは応えなければならない。
経営者が期待する4つの役割
さて、それでは経営者は具体的に、スマートHRD にどのような役割を期待しているのだろうか。筆者は、以下の4 つに定義している。