特別企画 第22回 能力開発優秀企業賞 受賞企業 事例報告 非公式な人のつながりが 仕事へのやりがいを醸成
日本能率協会は、優秀な能力開発活動を行った組織を表彰することにより、産業界に有効な能力開発のあり方を普及させることを目的に、1988年「能力開発優秀企業賞」を創設した。
第22回となる今回は、日立建機、東京海上日動システムズ、日本ベーリンガーインゲルハイムが受賞。そこで3月号から3号にわたり、この順序でその取り組みを紹介する。
東京海上日動システムズでは、働きがいのある職場づくりと育成型人事施策の展開を両輪に、さまざまな制度と施策を導入し、効果を上げている。IT業界における、社員のやりがいを軸とした能力開発、組織づくりのモデルケースとして高い評価を受け、本賞受賞となった。
東京海上日動システムズは、東京海上日動火災保険をはじめとする東京海上グループのIT 戦略を担うシステム会社である。ビジネスモデル構築に当たり、システムの企画、提案から開発や保守、運用まで、トータルなサービスを提供している。
2004 年10 月に東京海上システム開発、日動火災システム開発、東京海上コンピュータサービスの合併により誕生した同社だが、合併直後は縦割りの弊害に悩まされたという。社風の違う社員間の溝は無視できるほど浅くはなく、社内には不安や戸惑いが広がっていた。そうした不安や戸惑いを払拭するべく、2005 年に社員の有志によって始められたのが、後述する「ワクワクワークスタイル改革活動」である。
一方、会社側も、メンター制度などの育成の仕組みや、各自の成長を促すことを目的とした評価制度などを導入。社員の自発的活動と、会社の環境整備や支援が相まって、社員がやりがいを感じながら働ける組織づくりに成功した東京海上日動システムズ。その取り組みについて見てみよう。
行くのが楽しみな会社をめざして
同社の取り組みの基盤となっている人財育成に対する思いを、社長の横塚裕志氏はこう語る。「システムは人がつくるもの。ですから、弊社では人財を最も重要なものととらえ、人財育成に力を入れています。当社の人財育成の基本ポリシーは、『好きこそものの上手なれ』。その仕事が好きならば積極的に取り組みますし、その結果、仕事の能力も高まるでしょう。仕事が好きで働きがいがあり、毎日行くのが楽しい会社――これをどう実現するのかということをベースに、人財育成を考えています」
“仕事が好きで働きがいがあり、毎日行くのが楽しい会社”を実現する土壌づくりの中で、なんといってもユニークな取り組みが、「ワクワクワークスタイル改革活動」である。
合併の影響で停滞した社内の雰囲気を変えるため、有志社員が集まって最初に行ったのは、社員の本音を知るためのアンケート調査。そこから「横のつながりがない」「社員が内向きで顧客や社外に関する知識が不足している」といった問題点が見えてきたため、「組織の壁を越えた社員同士の交流を促進する」「より良いシステムづくりに活かすために、顧客や社外を知る」という2 つの活動方針を決定した。
この取り組みの必要性が経営陣に認識され、活動開始から半年後の2005年5 月、「ワークスタイル改革委員会」(以下、改革委員会)が正式に発足。部門も部署も違うメンバー約20 名が集まった。改革委員会ではまず、保険代理店などのエンドユーザーを訪ねて、他社の働き方について学ぶ見学会を毎月主催し、そのレポートを社員食堂前の廊下に掲示した。すると、活動内容は口コミで社内に広まっていった。この活動の重要性は年を追うごとに高く評価され、2009 年度から取締役会直轄の正式な組織として組織図に記載されるまでになった。
さらに改革委員会は、社員のインフォーマルな集まりである「コミュニティ活動」を推進し、活性化を図った。コミュニティとはこの場合、部活動のように、同じ興味や問題意識を持つメンバーが部門を越えて自主的に集まり活動する会のこと。IT 技術の勉強会からスポーツ観戦、ラーメン食べ歩きや麻雀のコミュニティまで多種多様な集まりが年々増え続け、今や150 以上。ほとんどの社員が何らかのコミュニティに属しているという。